本誌で連載ページ『裏みつを』を展開している、タメ年落語家の立川談慶さんの独演会に出かけてきた。去年の11月に師匠の立川談志さんが他界したばかりであり、発売直前にここで書いたとおり、最新号では師匠への強い想いが詰まっていた。想いをそのまま高座に持ち込むだろうから、仲間として自分の中に飲み込みたかった。さらに談志師匠の十八番の1つだった『芝浜』を披露する。これは心して対峙しなければと、こっちも相当にテンション上げて席に着いた。
前座の噺が終り、談慶さんが登場した。本編に入る前のまくらでは、談志師匠が亡くなったことにまつわる話に終始した。笑いを誘うものの、僕には今回の『裏みつを』の文章がベースにあるものだから、哀しみが見えてきてしまう。いや、会場にいた皆さん全員が、師匠への愛を知っている。その上で言葉を飲み込んでいく来場者との一体感が生まれた。師匠の死を乗り越えていく弟子を応援したい空気が会場に満ちあふれていて、それにパワフルに応えていく談慶さんだった。月並みな表現ながら、客席と一体となった見事なライブが展開されたのだ。
一席目を終え中入り後、いよいよ『芝浜』である。僕でも内容は知っている人情話の傑作で、どう演じるのか楽しみにしていた。登場してまくらなしでいきなり始めた。これまで何度かだが足を運んだことはあるが、まくらなしで始まったのは初めてで、これには驚かされた。落語を体験していない方にたとえて説明するなら、RCサクセションがライブオープニングで、『スローバラード』をイントロなしで始めたかのようなものだ。冒頭からグイグイと引き寄せられていく。夫婦のやりとりが映像になって見えてくるような熱演で、3年突き通した嘘を話す女房の姿は見事だった。あっという間の45分で下げたとき、観客は全員心からの拍手を送っていた。素晴らしかった。きっと談慶さんは年月をかけて磨きあげていくことだろう。素人が生意気だが、噺家の年輪が大きな魅力になっていく噺だ。
大きな存在を失ったことで背負い込むものもある。談慶さんからの強い決意のようなものが、タメ年の僕の胸に響き渡り、いつにも増してライブの良さを知った。そしていつも思うことだが、たった1人で演じて、我々聞き手をその世界へと引き込んでいくのは見事であり、体験していないタメ年男たちに足を運ぶことを勧めたい。映像で見る落語とはまったく異なり、この世界こそ生の素晴らしさを実感できる。