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7,300万円で落札されたそのワケは?
先月、4月4日(日) に飛び込んできたニュースは衝撃的だった。
“任天堂のゲーム機「ファミリーコンピュータ (ファミコン)」の海外版用ソフト「スーパーマリオブラザーズ」が、米国のオークションで66万ドル (約7300万円) で落札された。オークションを主催した米国の競売会社ヘリテージ・オークションズによると、ゲームソフトの落札価格としては過去最高額だという。” [ニュース出典:朝日新聞デジタル]
ゲームソフトの落札価格としては過去最高額とのこと。
あるべきはずの「Nintendo Entertainment System」(海外版ファミコン) の商標がなぜかプリントされていない初期生産もので、さらに新品未開封という、貴重なソフトだったそうだ。
しかし、ゲームファンの関心ごとといえばやはり最新ソフトで、大多数はその動向を追っているように思える。歴史的なゲームではあるが、大ヒット作だけに出回った本数も多く、本来は特別珍しいわけではないはずだ。いくら貴重と言っても、今回ナゼ、7,300万円もの破格の高額で取引されたのか?
’90年代から今までのゲーム収集状況の変化、そして収集している人の思いに焦点を当てて迫っていこう。
任天堂研究家であり、『昭和50年男』本誌でも執筆家として活躍している 山崎 功氏に話を聞いた。
(聞き手/Web担当 M)
アメリカでのファミコン (NES) &スーパーマリオ事情
(以下、山崎 功氏・談) アメリカでのファミコンは「Nintendo Entertainment System」、通称 “NES”として発売されました。「ファミリーコンピュータ」という名前をそのまま使わなかったのには理由があります。アメリカではファミコンより前にアタリ社のゲーム機器が流行っていました。当時、アタリ社は開発情報を解禁し、パソコンソフトのようにどこのメーカーも自由にソフトを作っていいですよと言ってました。たくさんのソフトメーカーが乱立してアタリ社用のゲームを作り、全米で1,500万台を超した (※諸説あり) ほどアタリの機器が普及したと言われています。
一方、大量のソフトが作られたので、その中にはダメソフトって言うんですかね、粗雑なゲームもたくさんあって、ユーザーに飽きられてしまったんです。“コンピューターゲーム、あれはダメだ” という風潮が高まり、衰退を迎えていた時代に、任天堂がアメリカ市場に参入。コンピューターゲームに抵抗感があった時代に、その流れを変えようと、“単なるゲーム機じゃない、家庭で楽しめるエンターテイメントですよ” と任天堂はアピールしていったんです。それで「Nintendo Entertainment System」という呼称で発売しました。ゲームと他の玩具を連動させて遊べるという施策も取っていましたし、面白いゲームもたくさん出たのでアメリカのゲーム機市場は復活したんですね。
しかも第一弾のゲームソフトがファミコンで最も売れた『スーパーマリオブラザーズ』。このソフトの功績はものすごく大きかった。 NES本体にスーパーマリオを同梱してしまったんです。いきなり最初に最高のソフトを提供したので、みんな “ゲームってやっぱり面白いじゃん” と一気に広まり、日本から1、2年遅れてアメリカで一大ブームが巻き起こったのです。今回これだけの超高額で落札されたのは、最も多くの人に遊ばれたスーパーマリオだったから、ということが第一の理由に挙げられますね。
ゲームの世界でも、基本的に希少性のあるものは高額となる可能性があります。北米でスーパーマリオが発売された時、ものすごく人気でみんなプレイするために買ったので、今も未開封で残っているものは少ないし、特殊なバージョンだとまずあり得ないでしょう。北米のスーパーマリオって日本と違っていろんなバージョンがあるようです。現地の正確な状況はわからないのですが、各エリア、各時期でバージョンアップが整いきっていない状況で、「Nintendo Entertainment System」の商標が付いていないものも存在した。
今回落札されたソフトはそうしたバージョン違いの中でもかなり珍しかったのと、歴史的な価値が大きかった可能性が高いです。スーパーマリオという人気の高いビッグタイトルで、バージョン違いとなると、やはりマニアが多いので、オークションに出ると競い合うことになりますよね。となるとマニアは躍起になります。でも、通常はビッグタイトルに高額な値段がつくことってほぼないに等しいのです。なにせ、出荷数が多いので、誰もが中古を見つけやすいソフトとなるからです。
誰もがプレイしたソフトなのに高値になったのが面白いですよね。新品未開封という最高の状態なのも大きなポイントですね。そこにバージョン違いだという情報があれば、全部揃えたいというコレクターにとっては垂涎のアイテムとなります。今回のソフトも含め、ゲームソフトというものは、もともと一般向けに大量に市場に出回るし、消費者としてはプレイしたくて購入したわけで、保存のために2個買いした人はほぼいなかったはずです。よほど裕福でもない限り、同じものを2本買うなら1本でも新しいゲームを欲しがるのが子供ですから。
ゲームは、流行りに乗って消費されて、飽きられたら捨てられてしまう運命。箱なんてすぐつぶれたりなくなったりするし、みんなゲーム自体を遊びたかったので。新品未開封というのはマニアにとっては最高な状態で、後世に残すという意味でも貴重ですよね。
ゲームのデータはデジタルでコピーできるので、新品未開封、バージョン違いのパッケージが超貴重という点が、今回の落札金額に大きな影響を与えています。任天堂が世界に認められたブランドで、希少性の高いものには絶大な価値があると示された現象と言えるでしょう。でも、僕にはとても戸惑いがあって…。SNSでの発信状況を見ても、日本人の数多くのマニアも戸惑っていると感じています。
(次ページへ続く → 今回の落札価格の高騰現象はナゼ? [2/5] )