自炊代行業者提訴に賛否両論。

先日、本サイトでも紹介したように、7人の著名な作家・漫画家たちが自炊代行業者を提訴した。様々なところから賛否両論が飛び交っており、そのなかからいくつか代表的なものを紹介してみたい。

<提訴した作家陣の会見から>オリコンライフより
■浅田次郎氏
「作品は血を分けた子供と同然。自分が作りだした本が見ず知らず人の手によっていいようにされ、あずかり知らぬところで利益にされる。裁断された本は正視にたえない」

■弘兼憲史氏
「利便性を優先すると制作側にダメージがあることを知ってほしい」

■大沢在昌氏
「電子書籍事業が出版業界全体にとってプラスに働くために絶対に海賊版の普及を食い止めなければならない。その最も大きなきっかけとなりかねないのがスキャン事業であり、だからこそ重要だ」

■東野圭吾氏
「このスキャンの問題に関して、個人的には電子書籍と全然関係がないと考えています。『電子書籍を出さないから、このような行為が起こるんだ』という言い分があるなら、私はこう言います。“売ってないから盗むんだ”こんな言い分は通らない!」

<批判的な意見>
■ITジャーナリストの津田大介氏(ツイッターより)
「Kindle Fireが爆発的に売れ始めてる米国とまともな電子書籍マーケットも立ち上がらず、あまつさえ先進読書家のための自炊代行サービスを訴訟で潰す日本。デジタル海賊版対策ってのは摘発とともに違法ファイルと同じものを適切な価格でデジタルに出すのが王道なのにそれもやらない。役所か!」

■漫画家の佐藤秀峰氏(漫画onWebより)
「僕は、本を買った後の使い方まで指示されるなら、その作家の本はあまり買いたくありません。他にも楽しい物はいっぱいありますし、中古で買うな、売るな、漫画喫茶で読むな、自炊するな、と言われたら、本は新刊で買って、読まなくなったら捨てるしかないです。わざわざ自炊をしてまで、自分の著作を読もうとしている人達を、なぜ閉め出そうとするのでしょうか」

<賛成の意見>
東京大学先端科学技術研究センター・教授 玉井克哉氏(アゴラより)
ただ単に「自炊」を代行しているだけであれば、「自炊」そのものと同様、経済的な影響はないと言えるでしょう。しかし、「自炊代行」業者の行為がそれに留まるとは限りません。PDFにしたデータは、「代行」を依頼した者(以下「依頼者」と呼びます)に送ることになります。これはデジタル・データですから、複製が極めて容易です。浅田次郎さんとか弘兼憲史さんとか、人気のある作家・漫画家の場合、多くの人が「代行」を依頼するでしょう。そうした場合、業者は、いったんデータを依頼者に送った場合はいちいちデータを廃棄するのでしょうか。依頼者ごとに本を裁断し、スキャンし直してデータを取り直し、別々のデータをそれぞれの依頼者に送るのでしょうか。私には、とてもそんなことは想像できません。そんな非効率なことをしているようでは、「自炊代行」業者相互間の競争に負け、市場からの退出を余儀なくされることになるでしょう。いちどPDFにしてデータを取れば、二番目以降の依頼者には同じデータを送るのが一般的でしょう。では、二番目以降の依頼者が裁断用に送った本は、いちいち裁断するのでしょうか。データを取らないのに裁断するなどということは、まったく無駄なことです。そんな馬鹿げた、無駄なことはしない、というのが、無理のない想定でしょう。【中略】彼らの権利主張は正当です。私は、断乎支持します。彼らの勇気ある行動に、私は拍手を送りたい。

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さて、読者のみなさんはどのように考えるだろうか。どの意見も一理あるとは思うのだが、(提訴への)賛成派は代行業そのものというより、自炊代行業者からスキャンデータが漏れることを前提としていることに気がつく。ユーザーサイドとしては、自分でやるのがよくて、代行するとダメ、というのはどうも納得がいかないだろうし、今後の裁判の法的根拠についてもそこに集約されていくのだろう。しかし、法的根拠とは別に、過剰な著作権保護が経済を停滞させることは、今回、無罪判決が出たウイニーの件もそうだし、音楽CDにおけるコピーガード機能などでも明らかではないだろうか。

もちろん、著作者の権利を求めていくことを否定するものではないが、そうしたことの責任を代行業に求めるというのもかなり微妙な気がする。権利を声高に叫ぶだけでは、ユーザーが離れていくばかり(実際にそうなりつつある)であり、ユーザーニーズを満たすために著者、出版社、関連サービス業などが共に新しい書籍のあるべき姿を探っていかなくては、自分のクビを締めるだけのように思われてならない。

◆副編集長:小笠原
年末年始に飲みまくり、食べまくることだけを夢見てひたすら締め切りに勤しむ。

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