【懐かしの名盤】エアロスミス『Rocks』(8/8)

不定期連載『懐かしの名盤ジャンジャカジャーン』のエアロスミス編の続きだ。この連載は、洋楽邦楽問わず音楽クレイジーだった昭和40年男にとっての名盤を、各ミュージシャンから1枚、僕の独断でセレクトしている。悩みに悩んだ末エアロの1枚に決定したのは『ロックス(Rocks)』だ。中2の時にエアチェックしたエアロの特集で音にふれ、お気に入りミュージシャンとなり、発売されていたすべてのアルバムを購入するほど中毒になった。僕にとってのフェイバリット・バンドに君臨し、長い期間愛し続けたのだが、82年にリリースされた『美獣乱舞(Rock In A Hard Place)』で、僕の心は離れてしまった。だがしばらくの時間を経て聴こえてきた「デュード」に大復活を感じて、その後の快進撃に再びつき合うようになった。

やがて来日公演に出かけた。武道館で観たエアロはそれはすばらしく『バック・イン・ザ・サドル』や『ドリーム・オン』などの初期の名曲もキチンと演奏してくれ、やはりストーンズのような余裕を感じさせるものだった。スティーブンとジョーのコンビは、ミック&キース同様ステージさばきのカッコよさを知り尽くしている。あっ、キヨシローとチャボもだよ。こういう華があるというのは、持って生まれたものも多分にあるのだろうねとため息をついてしまう僕だ。そしてライブというと忘れられないのが98年のドームツアーで、僕はこのとき2回目になる生エアロを体験しようとチケットを購入して楽しみにその日を待っていた。が、人生初の編集長を引き受け、その処女作の制作にちょうどかぶってしまい、泣く泣く断念したのである。エアロと僕が再び距離を置くことになる予兆だったのかもしれない。

前後してしまうが、『ゲット・ア・グリップ(Get A Grip)』からしばらく間が空いた、97年リリースの『ナイン・ライブス(Nine Lives)』も発売直後に購入し、この前2作よりやや劣る感じはしたが、ストレートな感じが僕には心地よかった。そして続く『ジャスト・プッシュ・プレイ(Just Push Play)』で、エアロとは2度目になる、別れとなってしまったのである。シングルになった『ジェイディット』がそうさせた。この曲甘い。甘すぎるのだ。この2枚のアルバムの間には映画『アルマゲドン』の主題歌『ミス・ア・シング』がいやらしく存在する。奇しくも断念したライブの後で、同じ98年のことだ。ヒットチャートを真剣に追いかけていない僕でも耳に届くくらいのヒット曲だが、甘過ぎて大嫌いだ。だが、この大ヒットの蜜の味がスティーブンを狂わせたのだと僕は思っていて、それが『ジャスト・プッシュ・プレイ(Just Push Play)』の『ジェイディット』につながってしまった。このサビといい、Aメロの出だしいい、むしずが走るほど嫌いだ。レインボーの『アイサレンダー』よりも、キッスの『ラビン・ユー・ベイビー』よりもぶっ飛んだ。『ミス・ア・シング』の甘さは、映画音楽という大きな題目があったからだと百歩譲って許せるが、『ジェイディット』には許せる部分がまったくない。くどいが、甘いにもほどがある。スティーブンはデビュー作ですでに『ドリーム・オン』を書き上げているくらいの、よいメロディメーカーである。本気になればこのくらいのキャッチーな曲は朝飯前なのだ。だがエアロは、うまいところでバランスさせて、ロックの王道に留まっていたことが大きな魅力だった。

憂さ晴らしのようなブルースのカバーアルバム『ホンキン・オン・ボーボゥ(Honkin’ 0n Bobo)』は痛快だが、オリジナルアルバムとする作品ではなく、ライブアルバムのような存在だ。というわけで、僕はエアロと10年前にさよならしたままで、今回の来日公演にも手が出なかったのはそのせいだ。現在レコーディング中と報じられている次作がどんな作品になるのかが、ホントにエアロから離れるか、またくっつくかが問われている。って、僕ごときが離れたところでどうってことないだろうが(笑)。そんな寂しい想いを一時でも解き放ってくれるのが、『ロックス(Rocks)』を大音量でかけているときなのだ。

さて、長いこと綴ってきたエアロスミス編はこれでおしまいです。ご意見お待ちしてます。

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