不定期連載『懐かしの名盤ジャンジャカジャーン』のエアロスミス編の続きだ。この連載は、洋楽邦楽問わず音楽クレイジーだった昭和40年男にとっての名盤を、各ミュージシャンから1枚、僕の独断でセレクトしている。悩みに悩んだ末選んだのは『ロックス(Rocks)』だ。中2の時にエアチェックしたエアロの特集で音にふれ、お気に入りミュージシャンとなり、発売されていたすべてのアルバムを購入するほど中毒になった。僕にとってのフェイバリットバンドに君臨し、長い期間愛し続けたのだが、82年にリリースされた『美獣乱舞(Rock In A Hard Place)』で、僕の心は離れてしまった。
これまでも語ってきたから省略しながら書くが、ちょうどこのころからシンプルで黒っぽい要素が入った音楽にハマっていった。高2にしてちょっと背伸びしたいとの気持ちもあったのだろう。ハードに押しまくるのでなく、腰が動いてしまうようなビートとサウンドで攻めてくるバンドを求めて、ストーンズやフェイセス、クリームなどのクラシックロックや、ダイヤーストレイツやプリテンダーズ、ポリスなんてバンドが日に日に心地よくなってきた。さらにこの年はJ・ガイルズバンドが『堕ちた天使』(懐かしいねえ)を大ヒットさせていたり、RCサクセションの『サマー・ツアー』がヒットチャートを賑わせたり、嗜好のターニングポイントを盛り上げるにふさわしい年だったのだ。それまで愛していた、歪んだギターでグイグイ押してくる上をハイトーンのボーカルがシャウトする、分厚いサウンドのヘビィメタルやハードロックにドンドン冷めていった。もうこの頃にはクイーンのような華美な音楽はもってのほか、なぜ僕はあんなに愛していたのだと完全否定するほどだった。ああ、若さとは勘違いの上に成り立っているのだ。まあ、こんな時期も必要だったのかもしれないが、後にブルースにハマってしまったのは、プラスよりもマイナスの方が大きいかもしれないなと今は反省している。だってね、悪魔に魂を売ってしまったのだから(笑)。その第一歩を踏み出したころにシンクロするような『美獣乱舞(Rock In A Hard Place)』のリリースだったのである。
エアロスミスはいいパランスを持っていた。ストレートなヘビィロックという微妙に“こっち側”にいたのだ。しかし『美獣乱舞(Rock In A Hard Place)』にはひどくガッカリさせられ、リアルタイムで追い続けたビッグスターは過去のものとなり、それだけでなくあんなアルバムをつくってしまう連中なのだとの烙印までを押したのだった。古いアルバムをたまに引っ張り出すものの、以前のように夢中になれない自分になった。僕だけでなく、多くのファンはエアロスミスを見放した。人気は完全に凋落し、ロックシーンの中心からしばらく姿を消したかのような時期に入ったのだった。(続く)