不定期連載記事『懐かしの名盤ジャンジャカジャーン』レッド・ツェッペリン編の続きだ。この連載は、音楽と密接に生きてきた昭和40年男にとっての名盤を、各ミュージシャンから1枚、僕の独断でセレクトしていこうという企画。今回悩み抜いてセレクトしたのは『Led Zeppelin2』だ。昭和40年男とレッド・ツェッペリンのつきあいは、現役リアルタイムでリリースされたアルバムが中2の頃で、翌年には解散となってしまったから、馴染みの薄い人の方が多いかもしれない。だがハマった者はトコトン愛してしまう、そんな存在だった。ここまで長々と、『In Through The Out Door』について書いてきたが、あくまで主役は『Led Zeppelin2』である。8作ある彼らのスタジオレコーディング盤から、僕がなぜこの作品をベストとしたのかを説明させていただこう。
1枚目から6枚目まではどれをベストにしても、ツェッペリンを愛していればいるほど頷くだろう。「ほーっ、あなたはそうですか」といった印象を与えるだけで、反論も確固としたものは成り立たず、互いが互いの意見を飲み込んでしまう。こんな風にファンを納得させる作品をつくり続けたミュージシャンはそうそういない。音楽専門誌などの企画で、評論家がベストアルバムを選ぶというのがある。これらでツェッペリンからのセレクトで目にするのもこの6枚からで、『Led Zeppelin1』『Led Zeppelin2』『Led Zeppelin4』が選ばれることがやや多いかなといったところだ。専門家が選んだ理由のコメントでも、極めて個人的な思い入れになっている場合が多いのは、いかに拮抗しているかの証だろう。唯一『Led Zeppelin4』だけはもっともらしいコメントができる。『天国への階段』という不朽の名作を含むうえ、秀作楽曲ばかりだからというものだ。
僕が『Led Zeppelin2』としたのは、針を落としたときの衝撃が強かったからである。極めて個人的な体験と環境によるものなので、そんなオチかよ叱られそうで怖いが白状しよう。エアチェックしたモノラルのカセットテープと、ステレオのレコードとの差があまりにも大きくて、不意打ちのような感動にやられてしまったのだ。アルバム冒頭の『胸いっぱいの愛を』は、説明不要の名曲であり、アルバムを初めて聴く半年以上前にはその音はエアチェックによって手に入れていた。ただし僕が持っていたラジカセはモノラルであり、FM放送でチェックしたとはいえ聴く音も当然シングルスピーカーだった。やっとのことでアルバムを手に入れ、長屋住まいの僕はヘッドフォンで大音量にして針を落とした。いきなり響いたロバート・プラントのセクシーボイスは、多分エアチェック時に録音ボタンが遅かったのだろう、レコードで初めて知ったことで、まずここで軽いジャブをあてられた。それに続くギターリフからベースなど、各々の音が左右に振ってあり、しびれてしまったのだ。曲途中のフリー演奏の部分も左右にガンガン動き、単純なことながらステレオレコーディングのすばらしさを知ったのだった。
これだけだとホントに怒られそうだが、後にリズム大好き人間になるように誘ってくれた最初の曲でもあった。やはり個人的な理由であることは否めないものの、少しだけもっともらしい理由かなと思う。ギターの強烈なリフに、ベース、ボーカルと順番に絡んできて、ドラムが重なったときは大げさでなく至福の瞬間に感じた。特定の人間が、奇跡的に出会わなければ出せないリズムが存在することを知ってしまったのである。それまではエアチェックしたテープを小音量で、どちらかといえば楽曲を聴いていただけに過ぎなかったから、このすばらしさに気が付かなかったのだ。
ツェッペリンが与えたロックシーンへの影響は、重厚なギターアンサンブルによる画期的な演奏形態や、個々の実力が高いレベルで拮抗していたことなどが大きいが、僕はなんといってもリズムの独自性、グルーブだと思う。今でこそ言葉にできるが、このフルバムを聴いた当時は感覚でしかない。「なんだこれ。ビートって言えばいいのか? なんでこんなにカッコいいんだ。でもこんなの聴いたこと無いぞ」という、なにもロジカルに整理できない小僧だった。いや、今もロジカルに説明なんかできないし、したくない。もし聴いたことのない人に紹介するなら「スゲー、カッコいいリズムだよ」とだけ伝えたい。
レッド・ツェッペリン編はここまでで、ちょっと愛が大き過ぎた、まさに『胸いっぱいの愛を』である。終わり。