佐賀紀行 (2) お猿の温泉?

僕はもともと旅好きであることに加え、ここ15年ほどは仕事で出張のチャンスが多いことから、47都道府県のうち46までで呑んで食って眠っていた。しかし、長い期間にわたってある県だけが残されたままだった。そして先週末のこと、ついにそこに訪れるチャンスを得たのである。短い滞在時間だったが、せっかく出かけてきたのだからと、昨日からレポートをお送りしている。

佐賀大和インターを降りて、宿泊先と逆方向である県庁周りや佐賀駅周辺を走り回った。午後1時をとうに過ぎていて、お腹が鳴り続けているのだが、東京でも見たことのあるチェーン店や、大資本をバックに地元とはなんの関係もない料理を出すような店ばかりである。これでは佐賀だか東京だかわかったもんじゃない。旅を続けてきて思うのは、残念なことだがどこの街に行ってもこの傾向は共通でということ。年月とともにチェーン店の看板は増える一方であり、日本中が金太郎飴のようで寂しい。それでも僕たちは「どうせ食うなら個人店にしよう」と、探し回った。極力地元でがんばっているところで金を使いたい。もしもまずくたって後悔なんかしない。その街でそこにいる人間が出したのれんで供された料理は、そのまま街の実力なんだと思っているからだ。もちろん、当たり外れはあるにしろ、のれんは出ているのは事実なのであり、守っているのはその街なのである。そうした意味で、チェーン店にはその街をジャッジする材料はほとんどない。せいぜい水のうまいまずいくらいだろう。接客でさえもマニュアル化された対応だから。せっかく遠くまで来たのに、そんな画一化されたものなんかまっぴらごめんである。

やがて蘭蘭なるラーメン店をやっとこさ見つけて、入店するとマンガの単行本がたくさんある、いかにも普通のラーメン店だ。チャンポンの看板が表に出ていたのでそれを頼んだ。学生ラーメン400円をメニューに入れている姿勢こそ、地域に根付いた店の証だろう。この店は、いい意味でも悪い意味でも個人店だった。わりとキャパのある店で切り盛りするのもたった1人の、正真正銘の個人店だ(笑)。客はけっこう入っていて、よくぞ1人で回している。ひょっとしたら、夕べ奥さんに逃げられただけかもしれないが…。どろっとしたスープに野菜たっぷりのチャンポンは初めて口にする味で、うまいかマズイかなんてそんな無粋なことはどうでもよく、大満足だったのだ。腹のふくれた一行は、この日の宿泊先である温泉街、古湯へと向かった。古くからあるから古湯で、そのまんまである。まさにひなびた温泉街で、いや、温泉街を名乗っていて、これ以上なにも無い温泉街は初めてだった。これは心底うれしい。旅とは未体験ゾーンへと足を踏み入れたときに快感になるものだ。

ほどなく、この日の宿である古湯温泉センターに到着した。古湯の中にあっても、古いだろうと思われる建物に期待は膨らむばかり。のれんをくぐると野菜に果物がドーンと並び、地元の方々であろう、コミュニケーションが見える。いわゆる共同湯で昨今のきらびやかな日帰り温泉施設ではなく、わびさびたっぷりの湯である。早速いただくことにした。入ってみると驚愕の平均年齢70歳越えと思える高齢者の吹きだまりである。ここでは昭和40年男は完全に若者で、年齢的アウェーを感じた。湯船は一応2つありつながっていて、熱めの小さな湯船からぬるい大きい湯船へとお湯が流れ込んでいる。そこに入っていくと、諸先輩方に申し訳ないが、まるで猿の温泉なのである。くしゃっとした爺さんたちの顔が10以上並び、どの爺さんもしゃべることなくただじっと温い湯に浸かっている。おかしいっす。笑っちゃマズイと我慢しながらの入浴だった。でもね、将来の日本はこうなりかねないのかななんて思ったりして。10数人の爺さんを3人の働き盛りが支える社会にならないように、作れる人は皆さんドンドン子供をつくりましょう。

それにしても、ここは最高でっせ。豪華温泉施設に辟易としている諸君には絶対のオススメポイントであり、そうでない方も昭和40年男だったら、この世界は体験した方がいい。ここは2階が休憩広間になっていて、3階には宿泊用の部屋がいくつかある。僕たちは素泊まりを選択して1人3,400円だった。またまた明日へ続く。

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