東の銀座に対して、西はなんてったって北新地だ。マジックアワーを少し過ぎたこの一等地で、燦然と輝くこの看板は「どーだーっ、ここが北新地じゃーっ」という強さを感じる。高級な料理屋さんや夜の接待系のお店がたくさん立ち並ぶ、大阪じゃないみたいな土地だ。
ほぼ、この地で飲んだことはない。だがとても親近感があるのは、上田正樹さんが歌った「あこがれの北新地」による。いっぺんここで呑みたかった主人公がボーナス全部使ってやると勇んで出かける。ホステスは2〜3人呼んでほしい。ビールもじゃんじゃん持ってこいとボーイに告げて、思い切り騒ごうかとルンルン気分の主人公。だがホステスにあんたらみたいな若いもんのくるところでないと言われてしまうという、あまりにも悲しすぎるストーリーの曲である(笑)。
上田正樹さんと有山じゅんじさんの『ぼちぼちいこか』に収められている。1975年の作品だが今聞いてもまったく古くない。というか、当時でも古いとも言えるだろう。日本語ラグタイムブルースの最高傑作で、名曲ばかりがズラリと並ぶ。曲だけでなく、このアルバムの演奏と歌唱は次元違いのレベルで、コテコテな内容だからそう感じさせないのもいい。45年前にこんな音楽があったんだと驚愕させられるから、ご興味のある方はぜひ。ただし、女性はこんなにもコテコテには手を出さない方がいいかも知れん。
再放送されていた『ムー一族』のオープニングテーマ曲や、『プロハンター』に使われてヒットした「ロンリー・ハート」で知られるクリエイションも同じく1975年のデビューだ。クリエイションの演奏力も半端でない。ジャパンロックがいよいよ花開いた時期で、その後はマーケットを肥大させながら、お茶の間にヒット曲がガンガン届けられるようになる。そこに乗っかったかのように、コテコテだった上田正樹さんはそれが信じられないほどおしゃれなAORナンバー「悲しい色やね」を大ヒットさせ、お茶の間に届けたのはなじみ深いだろう。コテコテの上田正樹さんをご存知ない方はぜひ「あこがれの北新地」を聴いてみてほしい。声が一緒のまるで別人を楽しめるぞ!!