出張の多い仕事である。行った先の楽しみといえば、なんてったって地のものを堪能することで、毎度面構えのいい居酒屋を探して勝負する。ただ最近は地方の飲食店に元気がないと感じることが多い。ビジネスホテルが激安になっているのも関係あるよね。出張宿泊者がどこの街でも減っているのだろう、そのまま街の衰退と見えることも少なくない。さらに大型チェーン店の進出は凄まじく、その競争にさらされるかっこうで、古くからの飲食店が窮地に立たされているような場面をよく見る。そんな波に立ち向かっている小さな居酒屋を見つけては仲良くなり、楽しい時間を過ごさせてもらうのが至福だ。
2件目はバーに行くことが多かった。過去形になってしまったのは、いいバーが減ったから。単純に自分自身が歳を重ねたというのもあるが、バーという場所に若さを感じてしまうと途端にテンションが下がってしまうのである。見知らぬ街のバーの扉を開けるのは、それなりの覚悟と礼節を持ってしての行動である。そこに若い兄ちゃんのセンスでまとめられた内装で、ビッとしていない普段着みたいな格好でカウンターに立っていると、ガッカリするものだ。門構えで判別できない僕が素人なのだが、残念なことが増えた。
そこで最近は、スナックの扉をくぐることが多くなった。これも景気のあおりからか、グッとリーズナブルに対応してくれることが多いのだ。「すいません、旅のものですが安く呑ませてもらえますか?」とは情けないセリフだが、会計で腹を立てて帰るのは、せっかく街を楽しんでいるのに水をさす。カウンターにいるのはたいがいおばちゃんで、地元でドップリと商売をやってきた余裕がある方がいい。「なに呑む」「焼酎、麦がいいっすね。あっ、歌好きですよ」と告げると、たいがい2,000円とか、強気でも3,000円くらいで対応してくれる。こうして交渉成立して、乾きもので焼酎をチビチビ呑るのだ。あまりに長っ尻はいけないと決めているのは、安くやってもらっているからだ。街の話を聞きながら、へたくそながら古い歌をひねれば、もうそれで最高っす。
ここ数年はこんな風にスナック好きなのだが、最近のスナックにも変化が生じている。なんと客もおばちゃんなのだ。そうね、50代中盤から60代くらいのおばちゃんたちが、古い歌を歌いながらゲラゲラ笑っている光景を見ることが多い。「まあ〜、東京から来たの」などといじられながら、夜は更けていくのだ。この人たちのダンナは家で留守番か? それとも残業で戦っているのか? それともそれとも別れちゃったのか? そんな野暮なことは聞けないから、謎のまま放置してあるが、どうやら全国的におばちゃんが元気だ。この秘訣を学んで、不景気なんかぶっ飛ばしたいなと思う、今日この頃である。