心が欲しているんだな、音楽を聴く時間が増している。昨夜も4枚のアルバムを次々にプッシュプレイした。その1枚が傑作『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』(左)だ。
ロッド・スチュワートがロック界を代表するシンガーだと言って異論がある者はおるまい。華やかさと切なさを双方最高峰クラスで表現できるシンガーだ。独特のしゃがれ声に憧れて、高校時代は喉をぶっつぶすように無茶な努力をしたが、かっこいい声にはなれなかった。
このアルバムがリリースされたのは1971年だから、リアルタイムで聴いた同世代はほぼいないだろう。この年のロッドはまさに快進撃で、『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』は英米で1位を獲得し、シングルカットされたロッドの初期を代表する名曲の『マギー・メイ』も英米トップと手のつけられない暴れっぷりだった。ソロ活動と並行して活動していたフェセイズでも、同バンドの最高傑作アルバム『馬の耳に念仏』(右)をリリースして大ヒットを記録した。このアルバムには、これまたロック史に残る名曲と言っていいだろう『ステイ・ウィズ・ミー』が収録されている。ロッドの71年はミラクルイヤーだということだ。
その後イギリスからアメリカに移り住み、存在も歌もどんどん派手になっていった。ピークが『アイム・セクシー』だ。僕は中1の冬にこの曲を歌うロッドをテレビで観て、その声とかっこよさに惚れ込んでしまった。同世代諸氏にとって、この曲でロッドを知った方は多いだろう。先日、エアロの時もつぶやいた。70年代の後半から80年代初頭のロックシーンはまさに混沌を極めていて、大物の浮沈が激しかった。そんな中でロッドは沈むことなくますます輝いたのだが、これ以前のロッドの方に僕は魅力を感じてしまう。渋さや憂いを感じさせる歌に対する華やかさのバランスが僕好みなのだ。アメリカに移ってからのアルバム1枚ごとにスーパースターの衣をまとっていくようであり、その頂点が『アイム・セクシー』収録の『スーパースターはブロンドがお好き』から『トゥナイト・アイム・ユアーズ』あたりとなる。その後やや低迷するが、まるで少しずつ自分を取り戻していくかのように以前のバランスになり、さらに年齢的な円熟が加わり91年にリリースした『ヴァガボンド・ハート』は20年ぶりの傑作だった。僕は「ロッド、おかえりなさい〜」と評した。
興味のある方はロッドの71年を2枚から、彼のすごさを今改めて感じてはいかがだろう。フェイセズはいなたいブルースロックでソロと異なる世界が楽しめるぞ。