浅草で、ず〜っと気になっていたそば屋ながら、手を出せなかったのは隣が名店『水口』だからだ。水口のある路地はもう一軒、欽ちゃんがひいきにしている昭和な店があり、20メートルほどに名店がひしめき合うゴールデンストリートである。そして今回訪ねた翁そばに関しては、『浅草秘密基地』の舞台となっているショットバー『FIGARO』に来る常連の浅草っこから勧められた。「水口はさすがですけど、隣の翁そばも最高でカレー南蛮が絶品ですよ」とのことで、ずいぶん前からウズウズしていた僕だ。先日、ついに水口の誘惑を振り払い、翁そばの暖簾をくぐった。
この上ない昭和な店内に心が大喜びする。小上がりがあるのも実によい。そして、従業員の方々のあたたかい接客と心のこもった声がけが標準装備されているのは、さすが浅草である。完璧な昭和をまた1つ見つけてしまった。
カレー南蛮が最高だと聞いてはいたが、ここはぐっとこらえてたぬきそばにした。完璧な店内を見せているのに試すようで恐縮ながら、昭和なそば屋の実力はたぬきそばで発揮される。変テコな持論だが、これはあくまで“昭和な”というキーワードがついた場合に限る。出汁のふくよかさとそれできちんとネギを焚いているか、揚げ玉の味に薬味のネギの切り方、そしてもちろんそばそのものも重要で、温かいつゆにもへこたれていないことを見るのである(って、決してグルメじゃない僕)。これらのすべてが完璧だった。とくに出汁だ。華美にうまくなくていい。普通でいい。普通をここまで貫いていることが昭和の名店なのである。
創業が大正とのことで、100年以上浅草を見守ってきたことになる。僕が愛する隣の『水口』も昭和25年創業の老舗ながら、翁そばに比べるとまだまだルーキーだな。
最後に付け加えると写真のたぬきそばが600円で、次にいただくことにしているカレー南蛮が650円。もりかけは450円と、お値段でも昭和を貫いている。おそるべし、浅草六区である。水口で昼呑みして、翁そばで締める。うーむこれは最高の贅沢だ。でもね、水口は締めにミートソースとナポリタンがラインナップされているから、ハシゴを実現するのはなかなかハードルが高い!!