ブログ特別不定期連載記事『懐かしの名盤ジャンジャカジャーン』の3枚目をずいぶんと長い時間をかけてお送りしている。この連載は音楽と密接に生きてきた昭和40年男にとっての名盤を、僕の独断でセレクトしていこうというもので、今回選んだのはロッド・スチュワートの『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー(Every Picture Tells A Story)』である。中1で『スーパースターはブロンドがお好き(Blondes Have More Fun)』を購入してロッドの音楽に出会った僕だったが、当初はのめり込む存在で無かった。だが自分の中で徐々に評価があがっていき、生まれて初めてのライヴを武道館に見に行き、その存在は別格なものとなった。
このコーナーを不定期連載する際に、自分の中で決めたルールがある。ロッドのようにソロとバンド双方で素晴らしい作品がある場合でも、いずれかから1枚に絞り込むというものだ。というわけでロッドの場合は泣く泣く(?)ソロ作品からチョイスしたのだが、ロッドを語る上でフェイセスは避けて通れず、素晴らしいバンドである。いきなり“たられば話”である。もしも『マギー・メイ』のヒットが無かったら、フェイセスはもっと長く活動し、世界的にもっと高く評価され、伝説のバンドとして後世に語り継がれただろう。No.1ヒットのせいで、フェイセスに対するロッドのモチベーションが下がってしまったことと、ロッドのバックみたいな信じ難い扱いが実力派たちの心を分離させた。まあ、『マギー・メイ』のヒットが無くてもいずれソロでいくタイプのシンガーだというのは十分にわかるが、解散を早めたのは確かだ。それはヒット後のソロ作品と、フェイセスの作品のクォリティにハッキリと出てしまっている。ソロの 『ネバー・ア・ダル・モーメント(Never A Dull Moment)』 は『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』に負けず劣らずの名作ながら、フェイセスの『ウー・ララ(Ooh la la)』はそれまでのフェイセスが積み上げてきた作品からすると寂しいものだ。
フェイセスからの1枚というと『馬の耳に念仏(A nod’s as good as a wink to a blind horse)』だろうな。黒っぽいのに影響を受けた英国ロックアルバムの代表的なものと僕は常々言い切っている。曲も演奏も素晴らしく、なにより肩に力が入っていない空気が全編に漂っているのがいい。『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』と同じ年に発売されたアルバムながら、まったく異なる仕上がりだ。余談ながらこの年にストーンズは『スティッキー・フィンガーズ(Sticky Fingers)』という野心作をリリースしている。ここがポイントである。野心という言葉がまったく似合わない仕上がりのアルバムになっていて、ここがフェイセスの魅力なのだ。『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』と『馬の耳に念仏』を、単純に好きなロックアルバムという尺度で比較したら、僕は『馬の耳に念仏』に軍配をあげてしまう。ただ、ロッドらしさがズゴーンと炸裂していて、歌唱と音楽的な素晴らしさを加味した傑作が『エブリィ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー』で、ロッドの魅力がすべて詰まっている。後に長く続いていく自分の世界を貫いていて、そこに若さと荒々しさがあることも作品の凄みになっている。『アトランティク・クロッシング』以降のロッドしか聴いていない方も多いだろうから、そんな方々はぜひ71年リリースのこの2枚に針をおとしてほしい。って、今どき針はおとしませんね。プレイボタンをプッシュだーっ!!