僕は転校の経験がないままに、学校生活を終えた。転校生が来るたび、また、転校していく友との別れの度に家が自営業でよかったと思ったのは、正直な胸の内である。ところがこの歳になって初めて、転校生の気持ちを感じることができた。先日お邪魔してきた、長野県の立科中学校同窓会の取材でのことである。
『浅草秘密基地』で仲良くなった小倉さんに誘っていただき、出かけることにした。タメ年がつながっていくことは雑誌づくりの力になるし、まだまだ知名度の低い『昭和40年男』にとっては、口コミ効果も期待できるかもしれない。実際アンケートを取ってみたら驚愕の結果となった。参加者男性13人中、その存在を知っていたのは小倉さんの他には一人のみ。ほとんど知られていないということだ。ウギャーッ!! これが現実で、きっとこの場に限ったことじゃないだろう。だが逆に考えればまだまだものすごく伸びしろがあるということじゃないの。がんばるぞー。
今回の参加にあたって当初立てた作戦は、開始時刻よりちょっと遅れて僕が会場に入りいきなり今回の仕掛人と演じるというもの。「小倉〜っ、久しぶり」、「おおーっ、北村か〜」と大げさに抱き合って始めるというものだった。そして続けて小倉さんが言うのだ。「すぐに転校していった北村だよ。確か1日だったかなあ。みんな忘れたのか?」と。でもね、ギターも弾けば写真も撮るということになっていてそんな芸を仕込む余裕なんかなく、グッドアイデアは残念ながらボツになった。いつかどっかでやってみたいけどね。それで取材という立ち位置ではあるが、今日来た転校生という設定に変更したのだ。
集合時間になると「久しぶりー」「おおーっ」と次々と入ってくる同窓生たち。「?」と僕を見るみなさんの視線が痛い。おおっ、これが転校生なのね。きっとみんなつらかったのね。と、アウェー感バシバシで、小学生当時を思い出した。幹事の小倉さんに紹介されて、こんな本を作っている編集長だと名乗り「今日1日転校生として仲良くしてください」と挨拶するとあたたかい拍手だよ。これも転校生の気分なんだろうな、先生からうながされてクラス中の視線を浴びながら挨拶する緊張感を、僕はたっぷり味わった。ホントにスッゲー緊張したよ。
ここからは楽しい宴となり、小倉さんのサックス演奏の伴奏をしっかり(?)とこなし、みなさんが知っていそうな『スタンド・バイ・ミー』を熱唱したのさ。曲の知名度だけでなく、中学時代の同窓会にあの映画のテーマソングというのはしっくり来るかなと選曲したのだ。参加者全員からあたたかな拍手と手拍子をいただき、僕はホントに転校生になれた気分がしたよ。
もうひとつ感動したのは、幹事でありこの企画の張本人にもなった小倉さんの冒頭の挨拶で、やらなければいつまで経っても集まらないから一念発起したと力強く言った。2月から準備してきたというのだから、半年だよ。帰り際にみんなが小倉さんに「ありがとう」といいながら帰っていくのも泣けたよ。
さあ、世の昭和40年男たちよ。幹事として立ち上がるのじゃー。ホント同窓っていい関係なんですな。そんな素晴らしい宴に参加させていただいた転校生を、あたたかく迎え入れてくれた立科中学のみなさん、ありがとうございました。