食べ物を粗末にしてはなりませぬ。お米はお百姓さんの命が込められている。物のない時代、とりわけ食うことが困難だった時代を生き抜いたお袋は、その部分において厳しく僕を育てた。おおよそおおらかだったが、食べ物にまつわる教育には心より感謝している。受け継いだ僕は息子にもいつも言った。米粒を大事にしろと。
写真とは全く関係ないのだが、そんなことを思い出させたのはこのお弁当だ。大門精米店と名乗り、キレイなおにぎりやいなり、丼ものとお弁当を売っていて、昼時はお客さんで賑わう。ご高齢の方々が切り盛りしているからか、このお弁当も見たまんま実に昭和らしい。ひじきがうまい。ナポリタンもうまい。ゆで卵が昭和チックでよい。ハンバーグはわりと今風なデミグラスソースでこれまたサイコー。そしてなんてったって、熱々のご飯がいい。お米やさんが炊くとこんなにうまいんだなという、感動的なご飯だ。
きちんと炊きたてのご飯をこうして供されると、コンビニは絶対に勝てない。あの資本を持ってしても、このうまさは不可能なのだ。お袋の教育だけでなく、生まれ育った東京下町の荒川区にあった商店街まで思い出させてくれた。気のいいおいちゃんおばちゃんのご夫婦で、いつもニコニコ笑顔で営業している個人店があふれていた。それぞれに個性があって、真似のできない味やふれあいがあったりした。お金のやり取りだけでも「はい、お釣りは10万円」なんてね。笑顔のないレジで品物とお釣りを渡され、感情の何もこもっていない「ありがとうございました」を言い渡されるのにすっかり慣れてしまった昨今だ。それさえも無人化するって、なんだか本来人の欲する方向と完全に逆行しているとしか思えないのだが、現代社会はそれでもよしとしているのだろうか?
この完璧に昭和なお弁当が、ぬぁんと550円ときた。家族経営なのだろう。もちろん米を一粒も残さず完食すると、感謝の気持ちまで連れてきてくれたステキなお弁当だ。そして僕のダイエットの敵である。大門の交差点の近くだから、探してみてはいかがだろう。