少し以前になるが、うまいことに近くで仕事があり、その一瞬の隙をついて『すみだ北斎美術館』に行ってきた。開館した頃は偉い混雑だと聞いていたが、もうその喧騒はなく(平日昼間だが)落ち着いて観られた。「いやー、人間てのはすごい力を秘めているのだな」というのが第一の感想だった。
葛飾北斎と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、『富嶽三十六景』の中で、いや北斎作品の中でも最高傑作と言っていいかもしれない、『神奈川沖浪裏』だろう。世界から称賛されるこの1枚は唯一無二と呼ぶにふさわしく、創意工夫にあふれている。70歳を過ぎてこの表現を開発したという集中力とど根性には、前述した感想の人間が秘めたものの大きさに感動するしかない。常に学び、自分の中でなんらかの革命を起こし、そして表現する。それができるのが人間なんだと大げさな感情が胸の中で弾けまくってしまい、そのまま涙となってあふれてくるのだった。
無学な僕は『北斎漫画』なるデッサン集のような雑誌(!?)の発行をしているのを知らなかった。これのレプリカが全て展示されていて、手にとってパラパラと見られる。これまた自分とタメ年の頃の作品もあるわけで、驚愕である。後に富嶽三十六景
後に『富嶽三十六景』へと突き進んでいくタメ年の頃の北斎に想いを馳せていると、やる気が噴出して来る。そのパワーを支えたのは、描きたいという強い心だったのだろう。と、数々の作品の筆の入り方にはその強さがありありと出ている。それらを見て感じまくった最後に、晩年の北斎の仕事場を再現しているコーナーがあり、そこには筆を取る北斎が再現されていた。チープに感じるかもしれないが、それまで圧倒され続けた分これさえも迫力を感じてならなかった。
ちょっぴり枯れそうになっている同世代諸氏に、これほど刺激を与えてくれる場所はそうそうないはずだ。神奈川沖浪裏が悪くないなと思う方は、予備知識なんかいらないから足を向けてみてはいかがだろう。