1981年『フリーズ・フレーム』J・ガイルズ・バンド

洋楽追想記

昭和40年男が本格的に洋楽を聴き始めた1980年代初頭は、ニューウェイブやエレクトロポップといった“派手な装飾”を施したロックサウンドが主流だった。そんな時代の大ヒット『堕ちた天使』をプレイバック。

『フリーズ・フレーム』J.ガイルズ・バンド
1981年『フリーズ・フレーム』J.ガイルズ・バンド
通算12作目にして初の全米ナンバーワンアルバムとなった大出世作。同じく全米1位に上り詰めた『堕ちた天使』の他、ランディ・ブレッカーなどのホーンを効果的に配したタイトル曲『フリーズ・フレイム』も全米4位をマークするヒットとなった。ニューウェイブ風のサウンドを取り入れつつ、タイトでシャープな演奏からは、バンドとして長年培ってきたキャリアを感じさせる。翌82年発表のライブ盤『ショー・タイム』も必聴だ。

昭和40年男が洋楽を聴きまくっていた中学から高校、大学にかけての時期というのは、今と違って、アメリカをはじめとする海外のチャート動向と日本で流行る洋楽動向とが連動していたという意味で、とても幸せな時代だったといえるだろう。全米チャートで1位に輝いたヒット曲は、日本のラジオでもヘビーローテーションされ、レコードもよく売れていた。我々がちょうど高校1年だった81年の暮れから翌82年の初頭にかけてヒットし、全米チャートで6週間にわたりトップに君臨した J・ガイルズ・バンドの出世作『堕ちた天使(原題:Centerfold)』も、聴いた瞬間にあの時代へと誘ってくれる、印象深いヒット曲のひとつだ。

おそらく、多くの昭和40年男は、この曲のヒットによりJ・ガイルズ・バンドの存在を知ったと思う。67年に結成され、71年にレコードデビューした彼らは、81年の時点ですでに中堅的なキャリアを持つロックバンドだったが、それまでに大きなヒットを放ったことはなく、この『堕ちた天使』は、デビュー10年目にしてつかんだ、待望の大ヒットだった。デビュー当初からよくローリング・ストーンズと比較された彼らの持ち味は、ブルースやリズム&ブルースをベースにした歯切れのよいロックンロールだったが、『堕ちた天使』では、そこに、当時流行っていたニューウェイブ的なテイストを加えることで、いきなりの大ブレイクとなったわけだ。

思い返せば、80年代前半というのは、通常のロックサウンドでは相手にしてもらえず、ニューウェイブやエレクトロポップといった“派手な装飾”が必要な時代だった。それはストーンズやポール・マッカートニー、デヴィッド・ボウイといったベテラン勢も例外ではなく、ストーンズの『エモーショナル・レスキュー』(80年)、ポールの『カミング・アップ』(80年)、ボウイの『レッツ・ダンス』(83年)などは、いずれも彼らなりに、そうした新しいサウンドを消化したナンバーだった。いうまでもなく、彼らは現在でもシーンの第一線で活躍している現役選手だが、その背後には、自身のスタイルに意固地になることなく、時代の変化に俊敏に対応する柔軟な姿勢があった。だからこそ、彼らは時代の荒波を乗り越えて、生き残ってきたわけだ。同じことが、J・ガイルズ・バンドにもいえた。“最高のB級バンド”なんて言われ、ステージでは圧倒的なパフォーマンスを繰り広げ、ファンを熱狂させてきた彼らが、少しだけ時代に寄り添い、ポップに仕上げた1曲が『堕ちた天使』だった。メンバーの思惑どおり、いや、それ以上の大ヒットとなったのも、彼らが地道に積み重ねてきたキャリアと実力の賜物だったのであり、決して“一発屋”などではない。

この曲のミュージックビデオも鮮烈な印象だった。女子高の教師に扮したリードボーカルのピーター・ウルフが、ランジェリー姿の女子高生たちに囲まれるというシーンを、多くの昭和40年男は画面に釘付けになりながら見ていたのじゃないだろうか。アメリカでMTVの放送がスタートしたのは81年8月で、『堕ちた天使』がヒットしていた当時も、まだミュージックビデオはめずらしかったと記憶している。それだけに、ちょっとでも刺激的な映像は目立っていたし、いまだに記憶の片隅に残っているもの(なかでもエロティックなシーンというのは、思春期の昭和40年男にとっては忘れられないもの…ですよね?)。『堕ちた天使』が大ヒットした要因の何割かは、このミュージックビデオによるものだったんじゃないかと個人的には思っている。

そうした刺激的な映像といい、ニューウェイブを取り入れたサウンドといい、ここでも同時期のストーンズの後塵を拝していた感もなくはないのだが、それでも『堕ちた天使』の大成功は、一瞬ではあったがストーンズをも凌駕し、時代の最前線に躍り出たJ・ガイルズ・バンドがかっ飛ばした大ホームランであった。

 

文:木村ユタカ

昭和40年、東京都生まれの音楽ライター。ロック、ソウル、日本のポップスなどを得意ジャンルに、音楽誌やCDのライナーに執筆。

※「昭和40年男」vol.25(2014年6月号)掲載記事

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