先日、フラッシュ・ゴードンのサントラをネタにしてここでつぶやいたところ、同じようなクイーン体験をしたという同世代諸氏からいくつかのコメントが寄せられた。ということは、『ジャズ』で僕が経験した大損失も聞いていただきたい。もしかしたらここにも何かしらの共通点があるのではなかろうか?
初めて自分の金でアルバムを買った。レコード店に通っては、ジャケットを見ながらため息をついた日々についに決別できる日がやってきたのだ。正月の家族での行事がすべて終わるのが4日で、僕はかき集めたお年玉を握りしめ翌朝のレコード店のオープンに合わせてチャリンコを走らせた。清水の舞台からダイブを決めた僕は、その初体験があまりにもうれしくて親に報告した。ここで惨劇が起こったのだ。迷いに迷った『オペラ座の夜』にしておけば、こんな悲惨な事故は起きなかった。
『ジャズ』にはこのアルバムのファーストシングルになった『バイシクルレース』のイメージピンナップが入っていた。そこにはチャリンコにまたがったヌードの女性がこれでもかと詰め込まれていて、それを無防備に広げた瞬間、四畳半の居間が凍りついた。僕もどうしていいかわからずただ寒かった。僕は数ある行動の中から、それを閉じてそのまま居間に置き去りにするという中1らしい選択をした。大人の階段を上り始めたガキにとってこの損失はあまりにも大きかった。初めて買ったアルバムは中途半端なセットになってしまった。いや、そんなこと以上に、魅惑に満ちたピンナップを失った喪失感は半端でなかった。
完全にハートブレイクしながらも2階の弟と兼用の子供部屋で針を落とした。さっきまでのハートブレイクをいきなり粉砕してくれたのがA面1局目の『ムスターファ』だ。「なんじゃーこりゃー」と松田優作さんになり、そのままのめり込んだ。それはそれでいい。だがやはり、しばらく大損失を後悔していた。そしてあのピンナップの行方は永久に闇の中である。