ガキの頃、節分は楽しみのひとつだった。お正月ロスで傷心気味の僕に、久しぶりに寄り添ってくれるイベントだからだ。いつもよりちょっとだけご馳走をこしらえてくれたり、普段食わない大豆をいくらでも食っていいのはささやかながらうれしかった。が、親父は大きな声で「鬼は外、福は内」と叫ばなければならぬと言い、弟と一緒に照れながらまいたものだ。家の中にまいた福豆を拾って食うのも、ちょっと不思議な楽しさだった。毎年、年齢の数どころじゃない豆を食ったものだ。
もうひとつ楽しみが、翌朝の登校だった。豆を踏みしめる感じがなんとも気持ちよかった。思えばあの頃はどこの家も鬼を追い払い、福を迎え入れたのだ。現代はまるで鬼も福もいないかのごとく、4日の朝に豆を踏むなんてことはない。さみしいことである。
暦の上では明日より春となる。季節を分けたのだから当然と言えば当然ながら、ワクワクしないはずがない。ちょっと前に迎春騒ぎをしたじゃないかと突っ込むなかれ。梅はもうチラホラ咲いているから時間を作って出かけたい。やがて、週替わりに異なる花が咲き、横綱格の桜まで様々な春の花たちが目を楽しませてくれる。うーん、春だ。
ついつい口ずさむ歌がある。シンシアの『春の予感』だ。尾崎亜美さんの名曲中の名曲で、サビがマイナー展開ながら、春の到来をまさしく予感させてくれる美しいメロディがなんとも男心をくすぐる。ご本人のセルフカバーもいいが、やはり南 沙織さんのバージョンがキュンとくる。タメ年諸氏はきっと皆さん同じだろう。この曲を口ずさみつつ、今宵は大声で「鬼は外」と叫んで欲しい。団地の僕は無理だから、今日の取材先で見つけた写真の福豆で一杯だな。