ちょいと古いお話。僕の大晦日の恒例行事になっているミートソース作りは平成最後となった。これまで何度同じように大晦日を過ごしたかは定かでないが、新しい元号になっても同じことをやっていると思われる。
毎回、何らかの新しい試みをすることにしていて、今回はゴロゴロとした超粗挽き肉を使うことだった。挽き肉は2.8㎏ほど用意して、1㎏をそれにしてみた。そして食感を残すために、普通のひき肉1.8㎏のみで煮始める戦法に出たのだ。
僕は料理を作るときにレシピやネットなんかで情報を得ない。だから今回の粗挽き肉の使い方や調理法が正解なのかはまったくわからん。だが素人なりに考えることが料理の楽しみであり、レシピ通りに作るなら缶詰を買ってきた方がよっぽど安いしそこそこうまい。と、常々思いながら大晦日の大作に取りかかるのは本当に楽しい時間だ。雑誌作りとはまったく違う素材ながら、結局は雑誌作りのように脳をピキピキさせて組み合わせているのだ。異なるのは失敗しても誰にも迷惑がかからないことで、これはアートの領域なのかもしれない。というのも…。
「売れなくていいのなら無人島で自分のためだけにやれ」
雑誌の仕事に関わる人にそう言いたくなることがある。いいものだけを追求するのだと開き直る輩がいるのだ。人に支持されるものをつくっているからお仕事なのであリ、本当に自分が求めたいことだけでやるならアート領域であり、無人島で自分の魂のためにできるはずだ。没後に評価されたアーティストだって多くいるからそう生きればいい。ただ、人様に喜んでもらうために生きるクリエイターを一緒にするなってな話で極々単純な話だ。そう、だから僕のミートソースはアートなのだ(笑)。誰も食ってくれなくてもいいんだもん。好きに作るもんと、前述の輩のように開き直る。まっ、これを一般的に趣味と呼び、アートと呼ぶのは大バカ者の僕らしい。
てな訳で、大晦日の昼過ぎにまずは1時間ほどかけてさまざまな野菜、きのこ類をひたすらみじん切りだ。にんにく・セロリなどの香味野菜とスパイスを多めのオリーブオイルでじっくり香りを出すように火にかけて、別の鍋では油を使わずに弱火でひき肉をポロポロになるまで炒める。2つの鍋を慈しむように眺めているおっさんはさぞ気持ち悪かろう。香味野菜の鍋に玉ねぎ、きのこなどの具野菜を入れてトマトホール缶を投入する。一方のひき肉の鍋には赤ワインを1本投入してひと煮立ちさせたらいよいよ合体だ。これをただひたすら煮詰めていき、途中でトマトホール缶を何度かに分けて補充していく。今回は15缶を投入した。ゆく年くる年を見終わったら火を止めて、翌朝また火を着ける。今回のチャレンジとなった粗挽きひき肉はお昼頃投入して、仕上げにマッシュルームを大量投入して出来上がりだ。味付けには塩しか使わない。
今回のチャレンジは粗挽き肉の使用だったが、これまでも試行錯誤の繰り返しでここに至っている。歴史があるのじゃ。出来上がったのを、元旦の大騒ぎの中で親族一同に食ってもらった。ついつい顔を覗き込んでしまう。偉そうなことを散々言ってきたが、とどのつまり「おいしい〜」のひと言を求めてしまう。やっぱり僕は、アーティストになれない小者ですわ(笑)。