昭和40年男の少年時代は、決して楽しいことばかりじゃなかった。今思えば笑っちゃうようなことでも、俺たちは真剣に悩み、戦っていた! ここではホロリと苦い “悲惨な戦いの記憶” を通じて、昭和40年代&50年代という時代を振り返ってみたい。
エロ情報に到達するまでの苦難の道のり。
男は “エロ” に目覚め、少年から大人になる。俺たち昭和40年男も中学生になる頃から、猛烈に “エロいもの” を求め始める。
しかし当時はインターネットもコンビニのアダルト雑誌売り場もない。俺たちは “エロ” にありつくため、想像を絶するイバラの道を歩まなければならなかった。
最初は保健体育の教科書から。夢にまで見た挿入場面の図解イラストに、俺たちは興奮! そして次に目を付けた合法エロ本は英和辞典。S●X、AN●L、NIP●LE、OR●Y などエロ単語を見つけては、授業そっちのけでウットリ眺めた。そう、俺たちは文字で興奮できた。こんな涙ぐましい話があるだろうか。
だが次第に文字や図解ではガマンできなくなり、風の噂に “ビニ本” というものがあると聞いた。「○○スーパー裏口の隠し扉を開くとビニ本販売機がある」なんて噂も流れ、もはや都市伝説レベル。ああビニ本、どこにあるのか。
だがそんな悶々とした日々に、一大転機が訪れる。修学旅行にビニ本を持ってきた奴がいたのだ!
場所は京都、昼はチンタラと寺めぐりをしながらも頭の中はビニ本のことばかり。金閣寺で “金” と聞いただけで、自分の金までビクンと反応する始末だ。
チンタラ寺めぐりも終わり、いよいよ夜。大広間にクラス男子35人が押し込められタコ部屋状態だが、今夜はビニ本がある!
「おー みんな、早く寝ろよー」
担任の理科教師K (前回も登場) が去ると、俺たち35人は放射状にうつ伏せ、ビニ本登場を待った。
「おーい、ちゃんと寝ろよー」
げっ、去ったと思ったK再び! Kはこれをきっかけに “フェイントのK” として人気は凋落した。今度こそKが去るのを完全に見届けると、俺たちは再び放射状に。
「おおーっ!」
放射円の中心に、うやうやしくビニ本様が登場すると、歓喜の溜息が漏れた。都市伝説とさえ思っていたビニ本が、いま目の前に!
「ビ、ビニールをむくぞ」「おうっ (×35人) 」
セロテープが剥がされ、ビニールがむかれる!
「めめめくるぞ!」「おうっ」
ついにページがめくられた!
…シーン。微妙な静寂が広間を包む。見開きブチ抜きで、素っ裸の女はいる。右手で片パイを、左手でアソコを抑え “ああーん” という表情。だが微妙だ。ハッキリ言うとブスなのだ!
静寂を破って誰かが言った。
「…これ、A田に似てねー?」
なんと女は35人のひとり、シャクレ同級生A田に似ていた! たちまち女に “A田姉ちゃん” とあだ名がつき、エロから一転、笑い者に。その後トンチキな状況がある度に「なんだよそれA田姉ちゃんかよ」ってな感じで、ギャグとして語り継がれたああ無情。
そしてビデオデッキが普及すると、エロは新たな局面を迎えたエロ第2章! しかも我が家にはデッキが2台導入され、1台は居間に、もう1台は自分の部屋に。部屋は夢のホームエロシアター!
だが「吉田の家にデッキが2台ある」と知られるや、先輩から呼び出された俺は、大量エロビデオのダビングを命じられた。
「5本を20人分、急げな」
2台のデッキをつながないとダビングはできない。そして1台は居間にある。俺は毎朝4時起きでデッキを抱え居間に降りるとコソコソつなぎ、5本×20人=100本ものダビングに励んだ。母の「何してるの?」攻撃も「いや別に」とかわしダビング100本! だが苦労の果てにビデオを渡すと、「画面がノイズだらけだ。ちゃんとクリーニングしろよビデオ!」と血も涙もないダメ出し! 近くの電気屋でビデオヘッドクリーナーを買うと、俺は再び早朝4時からダビング地獄に追われた。
クリックひとつでエロ画像にたどり着く時代が来るなんて、想像もしなかったあの頃。ましてや動画サイト。ただその分、イバラの道をかき分けエロに到達する達成感はあったかもしれない。
欲しいものは簡単に手に入らないからこそ価値がある、そんな大切なことを俺たちは、エロから学んだ。学んでどーする。
文:カベルナリア吉田
カベルナリア吉田 / 昭和40年、北海道生まれの紀行ライター。普段は沖縄や島を歩き、紀行文を書いている。新刊『何度行っても変わらない沖縄』(林檎プロモーション) と『突撃! 島酒場』(イカロス出版) 絶賛?発売中! さらに秋には珍しく、シニア向けの東京お散歩本も出版予定。近著『狙われた島』(アルファベータブックス) もヨロシク。新宿 Naked Loft で 12月24日 (!) にトークショー「日本のムカつく旅」開催するから来てねー! 175cm × 86kg、乙女座O型
うちの近所には高専があったので、学生の兄ちゃんが読んだエロ本がヤブの中に捨ててあった。小学生の頃は雨露に晒されくっついてパリパリになったエロ本のページを破かないように丁寧に剥がして好奇心の塊になって見てましたね。見終わったページは本から丁寧に破り取り、全員一致で残すことを決めたページだけ永谷園のお吸い物の円筒缶に入れてタイムカプセルの様に土に埋めて保管してました。「また見ような!」なんて言ってwwww