さあ、そろそろ色づくのが楽しみだなと家から駅の途中にある神社の大銀杏を見上げるとなんとないっ。ない、ない、ないっ。ご覧の通り木の上の方に葉がないのである。ここですっかり衰えた僕の脳はなんとか思い出した。「そうだ、台風の翌日に青い葉が大量に落ちていた」と。
季節の楽しみが失われるのはおっさんになればなるほどつらく、逆に季節を愛でるのは至福である。負け惜しみに聞こえなくもないが、加齢の醍醐味とでもいえばよかろうか。間違いなく昔よりも敏感に心が動く。最近涙もろくなったとお嘆きの同世代諸氏も多かろう。これも敏感な心の動きによるもので、ちょっとしたことの中にある感動ポイントを見出すのが若い頃より圧倒的に上手くなった。
「男は3度しか泣いてはならぬ。おぎゃっと生まれた時と父母の死に立ち会った時がそれだ」とは、僕の親父の口癖だった。その親父が忠臣蔵を見ながら涙を流しているのを見た時は本当にびっくりした。そしてなんだかうれしかったことを強く記憶している。「3度じゃないじゃん」てか。
我が師匠が週一で送ってくれるメールマガジンにこんな言葉があり、強く胸に刻んである。岩谷時子さんが本田美奈子さんに送った言葉だそうだ。岩谷さんは、越路吹雪さんのマネージャーとして活躍するかたわらで、シャンソンの訳詞から作詞家になり、後年はミュージカルの訳詞・作詞に注力した方だ。多くの経験と努力を積んだ方だからこそ語れる見事な教訓である。「1日10回感動しなさい。その積み重ねがあって詞を理解できる」と。こいつは高いハードルながら素晴らしい言葉で、我らの年ならきっとできるはずだ。さあ皆さん、1日10回泣けってことだぞ(笑)。