昭和40年男の少年時代は、決して楽しいことばかりじゃなかった。今思えば笑っちゃうようなことでも、俺たちは真剣に悩み、戦っていた! ここではホロリと苦い〝悲惨な戦いの記憶〟を通じて、昭和40年代&50年代という時代を振り返ってみたい。
カッコよくなりたい一心で周囲が見えなくなったあの日。
オシャレ心が芽生えた中学時代、不幸にも俺の頭は五分刈りだった。そして当時の中学男子は、“親が買った服を着る”のが普通で、日常着はジャージ。コーディネートなんて状況はありえなかった。
だが海の向こうから“バレンタインデー”がやって来ると、俺たちはソワソワした。チョコが欲しい、そのためにはオシャレしたい! しかし頭は五分刈り。あろうことか俺が通う中学は、男子は全員五分刈りと決まっていた。
中3の時、松田聖子がデビューするとクラスの女子全員がブラシつきドライヤー『くるくる』で髪をブロー、聖子ちゃんカットに大変身! うらやましかった。髪さえあればオシャレできるのに!と地団駄踏んだ中学3年間。そしてついに迎えた卒業の日、俺は誓った。しばらく髪は切らねーぞ、と。
満願成就、俺の髪は狂ったように伸び始めた!
さて髪が伸びたはいいが、どうすりゃいいのか。3年間の五分刈り生活は“髪はとかすもの”という常識すら俺から奪っていた。とりあえずブラシを購入。7:3に分けてみたが何だか…と迷える俺たちの前にオシャレ師匠が現れた。その名は“たのきんトリオ”! トシちゃんはオッサン、ヨッちゃんはアレ?って感じだからオシャレ師匠はマッチに決定。マッチ先生! 俺を含め昭和40年男子は、マッチ先生を手本にオシャレ道を爆走し始めた。
まず髪型。真ん中でフワッと分け、サイドをブラシで流す。ほどよく流れたらケープ大噴射! これで突風が吹いても一糸乱れぬ、さりげない(どこがだよ)オシャレヘアーが完成だ。ちなみにクセっ毛の俺は、毎朝ドライヤーの熱風をゴーゴー当て矯正していた。毛根が焼かれ、10年後に薄毛になるとも知らずゴーゴー。
髪型も決まった(と思っていた)ところで次は服装だ。当時のマッチ先生の定番はチェックのボタンダウン! さらに『ヤンヤン歌うスタジオ』で、先生は棒タイをあしらう上級テクも披露。コレだ! 俺はすぐさま千葉のセントラルプラザ(通称センプラ)に突入すると「棒タイありますか?」「はあ?」みたいな顔されながら棒タイGET。…ここで新たなボタンダウンが目に留まる。星条旗の刺繍、胸元に輝く「U.S.ARMY」の文字。アメリカ空軍仕立てのパイロットシャツ、超カッコいい! すぐさま購入。はずみで赤いベストも加わり、そしてその日は来た文化祭! 私服で登校できるこの日こそ、俺のオシャレを見せるチャンスだ。クラスの奴らは「ははーっ」とひれ伏すだろう!
俺は“ケープでガチガチに固めたヘアー、パイロットシャツに黒棒タイ赤ベスト、チノパンにデッキシューズ”というファッションで、颯爽と学校に乗り込んだ!
「…へー、カッコいいじゃん」と言いながらも困惑気味の友達に「あれ?」と思ったが、きっと妬んでいるのだろう。担任の物理教師K先生が「…派手だな」と苦笑していたが、所詮はオヤジだ。マッチ先生直伝(もはや別物)のセンス、わかるはずもない。
というわけで俺の高校生活はパイロットシャツと共に過ぎたが、次第にボタンダウンもダサい感じになり、パイロットシャツはタンスの片隅に追いやられた。
その20数年後、意外な形でパイロットシャツに再会した。朝青龍関が何かやらかして、お詫びで登場した親方(元朝潮関)のお召物は…パイロットシャツ! 一時コレが話題になり、パイロットシャツが売り切れたりした。俺のセンスは時代を先取りし過ぎていたのか? モデルが親方ってのが何とも微妙だったが。
ちなみに高校卒業後、2浪の末入った大学で俺を待っていたのはしょうゆ顔ブーム! さっそく俺は仲村トオル先生を師と仰ぎ、ポロシャツのエリを立て、ダンガリーシャツの胸元をガバッと開け、新たなオシャレ道を突き進んだ。途中から自分とトオル先生の区別がつかなくなり、家族に自分を「トオル」と呼ばせていたりしたから病気だったのかもしれない。
恋とオシャレは魔物だ。それは時々、男を狂わせる。フッ…。
文:カベルナリア吉田
【「昭和40年男」vol.36(2016年4月号)掲載】
カベルナリア吉田/昭和40年、北海道生まれの紀行ライター。普段は沖縄や島を歩き、紀行文を書いている。新刊『何度行っても変わらない沖縄』(林檎プロモーション)と『突撃!島酒場』(イカロス出版)絶賛?発売中! さらに秋には珍しく、シニア向けの東京お散歩本も出版予定。近著『狙われた島』(アルファベータブックス)もヨロシク。新宿Naked Loftで12月24日(!)にトークショー「日本のムカつく旅」開催するから来てねー! 175cm×86kg、乙女座O型
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