【誕生!昭和40年】クラリーノ

誕生! 昭和40年 born in 1965

【「昭和40年男」vol.35(2016年2月号)掲載】

昭和40年に生まれた、いわばタメ年の商品やサービスを我々の思い出と共に紹介する連載記事である。今回は、ランドセルにも使われた人工皮革の『クラリーノ』だ。天然皮革のような風合いでありながら丈夫で軽く、小柄な小学1年生にはうれしい存在だった。

クラリーノ
『クラリーノ』は、天然皮革の構造と性能を化学的に再現した人工皮革。開発当初は、特に強度が必要な靴の製品化を目指し、着用耐久試験も繰り返し行なわれた。写真は昭和40年前後に撮影された耐久試験の様子
クラリーノ ランドセル・学生カバン
69年にソフトタイプが開発されて以降、靴以外の商品も増えていった。ランドセルだけではなく、中学時代の学生かばんでお世話になった人も多いのでは

ランドセルは僕らの “相棒” だった。

毎年4月になると、街中で “ランドセルが歩く” 光景を見かける。もちろん、小学校に入学したての1年生が真新しいランドセルを背負っている姿のことだ。体がまだ小さくて、まるでランドセルが動き回っているようにも見える。

子供にとっては、入学式の前にランドセルが手元に届いた時から、ワクワク感が増してくる。筆者も絵本を入れたりしながら、気分だけは小学生になっていた記憶がある。しかもランドセルは、学校という新しい世界でいつも一緒にいてくれる “相棒” みたいにも思える大切な存在。それに決して安いものではなかったし、6年間使い続けるわけだから、購入時は子供だけでなく親もそれなりに真剣だったはずだ。当時は、今と違って男子は黒、女子は赤がほとんどだったから色を選ぶことはなかったが、重さや背負った時の感覚は、ものによって違う。子供ながらに実際に触りながら選ぶのが楽しかったことを覚えている。そんな購入の際のポイントのひとつが素材だ。

昭和40年男が入学する頃は、すでに人工皮革製品が登場しており、その代表格に『クラリーノ』があった。これは、倉敷レイヨン(現・クラレ)が昭和39年にテスト生産を開始し、翌40年から本格的な発売を始めた人工皮革で、その特徴のひとつである“軽さ”がまだ小さな小学1年生にはうれしかった。

『クラリーノ』は、特殊な合成繊維を絡み合わせた不織布をベースに作られている。開発のため研究員たちはアイデアを出し合いながら試作を繰り返したが、当初は苦労の連続だったという。最初の製品化目標だったのが靴で、試作品ができる度、実際に履いてテストをしたが、すぐに破れてしまうなど思うように進まなかったという。長きに渡る試作とテストを経て、ようやく実用に耐えるものを作り上げたが、発売初期には、紳士靴の曲がりが強くなる甲あたりにひび割れが出て、大量の返品が発生するというトラブルも出てしまったのだとか。そのため、再度着用テストを繰り返すなど、その苦労は並大抵のものではなかった。開発に携わった者の中には、完成した靴が愛おしくて抱きしめながら寝た人もいるというからその執念がうかがえる。また、こうした初期トラブルに対処できたことで品質が大きく向上し、靴以外の製品への用途が広がっていったという。そして70年頃からはランドセルにも採用され、子供にも身近なものとなっていったのだ。

ちなみに、「クラリーノ」という名前は、トランペットに通じる古い型の楽器の名称に由来するとか。当時の社長が、吹奏楽器がオーケストラにおいて大きな地位を占めているので、それと同じような存在に、さらには「勇壮に前進するファンファーレのように鳴り響いてほしい」という思いを込めて命名されたのだという。

ところで、我々には、小学生=ランドセルというイメージが定着しているが、実は昭和40年代には、「小さな子供が重いランドセルを背負うと身軽に動けず交通事故に巻き込まれるのでは?」あるいは「健康に影響が出るのでは?」などの声からランドセル廃止論が浮上したことがある。しかし軽量化が進んだことによってその声は消えていった。『クラリーノ』の登場がランドセル文化の継承に一役買ったといえるかもしれない。

今年の春もまた、多くの “ランドセルたち” を見かけることだろう。そこには、教科書だけではなく、夢を一杯に詰め込んで学校生活をスタートさせてほしいものだ。

軽快クラリーノ
蝶ネクタイ姿のかわいいアヒルが、『クラリーノ』の靴を履いている広告が印象的だった(70年代頃)。テレビCMではヒョコヒョコと歩く感じが、踊っているようで人気があった
クラレは、まだ使えるランドセルを海外へ送る「ランドセルは海を越えて」キャンペーンを、04年から行なっている(2018年の受付は終了)。詳細は公式サイト(http://www.omoide-randoseru.com)にて

協力:クラレ

【『昭和40年男』vol.35(2016年2月号)掲載】

文:舘谷 徹/昭和40年7月、埼玉県生まれのライター・脚本家。広報誌やWeb記事、ドラマやアニメの脚本を執筆。プラネタリウムで活動する市民グループにも参加中

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