【誕生!昭和40年】源氏パイ

誕生! 昭和40年 born in 1965昭和40年に生まれた、言わばタメ年の商品やサービスを我々の思い出と共に紹介する連載記事である。今回は、かわいいハート型とはギャップのある、武士っぽい名前が謎だった『源氏パイ』だ。

【「昭和40年男」Vol.46(2017年12月号)掲載】

昭和40年発売時の『源氏パイ』は300g入りで100円だった。発売のきっかけは、担当者がヨーロッパを視察中に洋菓子屋で手作りの「パルミエ」と呼ばれるハート型の高級パイ菓子に出合ったこと。これを手頃な価格で多くの人に味わってもらうべく、開発を始めたのだとか
昭和40年頃の『源氏パイ』を製造する工場内。当初、個包装ではなかったが、発売の約2年後から簡易個包装となり、現在は完全自動化による密封個包装となっている

この時季、クリスマスやお正月などで、親戚や友人の家を訪れる機会が多くなる。子供の頃の冬休み、友達の家へ遊びに行く際の密かな楽しみだったのは、その家で出てくるお菓子であった。しかも、自宅では出てこないようなお菓子となると楽しみが増した。

そんなお菓子のひとつに、昭和40年に発売が始まったハート型のパイ、『源氏パイ』があった。2口か3口で食べることができて、サクッとした歯触りも楽しいパイ。ちょっと意地汚いけれど、つい少し多めにいただいちゃったりしたものである。

商品名の由来は大河ドラマだった。

しかし、当時から疑問だったのは、かわいいハート型で女子にも人気があったお菓子なのに、『源氏パイ』というなんとも〝お堅い〟ネーミングである。はるか昔に、武士が食べていた? 武家にある秘伝レシピで作った? などなど想像をふくらませたりもしたが、真実は意外なものだった。

当時、洋風の“パイ”をお菓子にしたものはまだ珍しかったため、発売元の三立製菓では和風の名前をつけることで早く覚えてもらおうと考えた、と言うのだ。しかも、ちょうどその頃に翌1966年のNHK大河ドラマが『源義経』と発表されたそうで、この国民的ドラマのようにお客様に愛されたいという願いを込め「源氏」の名前をつけたのだとか。

ということは、翌年の大河ドラマが違うテーマであったなら、他の名前になっていたということか!? あまりにも意外な真実に驚くばかりだが、確かに覚えやすく1度聞いたら忘れられないネーミングではある。ちなみに、武士が使う弓矢の先端の鏑と呼ばれる部分がハート型に似ていたことも、発売するうえで都合がよかったようだ。

ところで、源氏と言えば平家だが、実は同社からは『平家パイ』も発売されている。平たく四角いパイに洋酒漬けレーズンが載っていて、もともとは『レーズンパイ』という名称だったが、2012年の大河ドラマが『平清盛』であったため、同年から名称を変えて発売されているのだ。しかも、四角いパイを、鏑矢を受ける盾、レーズンを何本もの矢の痕に見立てている…というのだから、まさに『源氏パイ』の姉妹品そのものである。

さて、名称にも凝った『源氏パイ』だが、お菓子そのものを作る苦労も大きかったようだ。開発当初はなかなかきれいなハート型にならず、機械を設計する段階から社員が意見を出し合い、何度も失敗しながら試行錯誤を繰り返した。さらに形がうまくいってからも、パイに振りかけた砂糖がうまく定着しないという問題があった。そんな時、ちょうど冬場で近くにストーブがあったため、温めてみたところ実にうまい具合に定着したため、それをヒントに製造ラインを作っていったという。

かわいい形の小さなパイだが、発売までにはいろいろな苦労があったのだ。そんな苦労の甲斐あって、定番菓子として今も多くの人に親しまれている。

食品などで一定の国際的基準に達しているものを格づけするモンドセレクション。1986年には、そのゴールドメダルを5年連続で受賞。日本では初めての快挙だった
現在の『源氏パイ』。かわいいハート型やサクッとした味わいは変わらない。俺たち世代は、ウイスキーと合わせるのもいいかも

協力:三立製菓

【「昭和40年男」Vol.46(2017年12月号)掲載】

文:舘谷 徹/昭和40年7月、埼玉県生まれのライター・脚本家。広報誌やWeb記事、ドラマやアニメの脚本を執筆。プラネタリウムで活動する市民グループにも参加中

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