その店でしか食えないお気に入りの料理があり、年に何度か出かける呑み屋に久しぶりに行った。ダメもとで「北村のボトルありますか」とたずねると、待つこと少々でこいつが出てきた。ホワイトで書いてある通り、前回は去年の暮れということになる。鮮やかにフラッシュバックしたのは、うれしい受賞の出張がありそのお祝いに行った日だった。
それにしても、こんな少量のボトルを8ヶ月以上もよく保管しておいてくれたものだ。家賃から算出したら、赤字のボトルだろう。僕はこうして少量のボトルを残して店を出ることが多い。なんとなくその店に足跡を残せた気になれるのがいい。また来ようという残心を置いて、そのままに「また来ます」と出るのが僕にとってかっこいい所作なのだ。気遣ってか長く置いてくれる店が多く、結果こうして営業妨害になっている(笑)。
かつて働いていた居酒屋のボトルキープはうまいシステムで回していた。残ったボトルを秤に乗せて、その量を10段階で台帳に記録する。キープ棚にはその10段階に分かれた名無しのボトルが整理されて置いてあり、客からボトルカードを提示されると台帳を見て前回の残りの量のボトルを提供するのだ。キープというより量り売りに近い気もしなくもないが、これによってボトルの管理場所は小さくできる。
出張先にたくさんのボトルが残されている。旅の者だと告げて盛り上がり、一期一会かもしれないのにほんのわずか残ったのを置いて出る。年末かなんかの大掃除の時、あの東京のおっさんはまた来るかななんてことを思っていただけたら幸せである。よくよく考えるといい習慣だ。店と客との信頼関係と気持ちの交流があるじゃないか。そして我想う。僕が日本中に残したボトルはいったいどれくらいあるだろう。おそらく100は軽く超えるはずだ。こうした足跡をキチンとデータにしておけば、きっと楽しく想い出巡りができる。残された呑んべえ人生はデータ管理してみるかな。