昭和40年に生まれた、いわばタメ年の商品やサービスを我々の思い出と共に紹介する連載記事である。今回は、遠足の定番お菓子でもあった『ジューC』。ジュワーと溶ける感じがくせになった。「カバドンドン」のCMソングが耳に残っている人も多いはずだ。
小学校の遠足は春も秋もあるわけだが、筆者の場合は秋の芋掘り遠足の思い出がかなり強烈だ。確か2、3年生の頃のことだったと思う。掘った分は持ち帰れると聞いて妙に気合いが入ったのを覚えていて、リュックサックからはみ出すほど詰め込んだものだ。それにしても、行く時点ですでにいろいろなものを入れてはち切れそうだったリュックサックなのに、どうやってあれほどのサツマイモが入ったのだろうか。今でも不思議だ。
遠足と聞いて思い出すことをもうひとつ挙げるなら、何といってもお菓子だろう。学年によって上限額は変わるが、それを超えない範囲でいかに多く買えるかが遠足の前哨戦だ。その際、『ジューC』は絶対に外せなかった。小さくて平たい、今で言うならタブレット菓子。でも当時はそんなシャレた言い方なんてなく、あくまでも食べるとジュワ~とくる粒々の菓子である。
「時間差攻撃」的な味わいがクセに
『ジューC』はあの小ささにもかかわらず、口に入れると最初は飴を舐めているようだが、噛み砕いているうちに粉のようになり、最後はまるでジュースを飲んだかのような感覚を味わえる。この「時間差攻撃」が食べて楽しくなる、買わずにはいられなくなる理由のひとつだった。
それもこの商品ができた経緯を知れば納得だ。『ジューC』を販売しているカバヤ食品では、粉末ジュースが昭和30年代の人気商品のひとつだったという。そこで、それをもっと手軽に味わってもらえないかと考え、製薬メーカーのビタミン錠などをヒントに粉末を固めた商品の開発に着手。昭和40年から販売を開始した。ちなみにこの商品名、当時はまだ栄養不足・ビタミン不足の子供たちも多く、食生活改善に貢献しようとビタミンCを入れたことから、「ジュース+ビタミンC」で『ジューC』となった(※)。
もうひとつ、子供にとってうれしかったのは、プラスチック容器に入っていたことだ。芋掘りに限らず、遠足などに出かけると、おみやげなどをバッグにガンガン詰め込んでいく。そのとき、袋菓子などではつぶされてしまい、帰りのバスや電車の中で食べられないほど無残な姿になる。その点『ジューC』は、最後までバッグの片隅で潰れずがんばってくれる。実際、発売当時はお菓子といえば紙容器が主流だったこともあり、プラスチック容器入りがヒットの一因にもなったそうだ。キャラメル1箱が10円の時代に30円で発売されたのに、子供たちの心をつかみ、年間6千万個も売れたという。
75年にはよりカラフルで目立つパッケージとなり、その頃からカバのキャラクターが出てくるテレビCMも始まる。その最後の部分で「ジュゥゥゥ~シー~」(そう筆者には聞こえる)と歌う、あの曲を覚えている人も多いだろう。通称「カバドンドン」というCMソングで、現在も同社のホームページで聞くことができる(※2)。最近それを耳にしたら、思わずスーパーに走ってしまった。リュックサックならぬ仕事用バッグに忍ばせる筆者なのである。
※ 誕生当初の商品名は『ジューCカット』だった/※2 2014年掲載時点の情報
協力:カバヤ食品
【「昭和40年男」Vol.27(2014年10月号)掲載】
文:舘谷 徹/昭和40年7月、埼玉県生まれのライター・脚本家。広報誌やWeb記事、ドラマやアニメの脚本を執筆。プラネタリウムで活動する市民グループにも参加中