僕がバーでちょくちょく使う言葉に、「無粋なんですが、マティーニをロックでください」というのがある。バーに行くのはほとんどが2軒目以降ということになる。さんざん焼酎を飲んだ後にマティーニをショートで頼んでもなかなか入っていかないから、お行儀悪いのを詫びながらも氷が薄めてくれるこいつがちょうどいいのである。だったら初めから薄まったジンソーダとかにすればいいと思うなかれ、マティーニはバーメニューの王様なのだ。いいバーに入ればよけいにこいつが欲しくなる。
先日、仕事で大分駅近くに泊まった。当然のごとく仲間たちと繰り出して旨いもので焼酎をしこたま呑り、軽くもう1軒と探しているとこの看板に吸い寄せられた。カラオケでもやるかと意気込んでのことだった。が、入るとあらびっくりのオーセンティックなバーじゃないか。こいつは思っていたのとは違うけど楽しみ方をスイッチすればいいやと、冒頭の言葉でドリンクをオーダーした。「ジンは何を使いましょう」と聞いてくれたので、タンカレーを選んだ。
作る姿を眺めていると、凛としながらもなじみやすい笑顔のマスターに好感を持った。2杯目のマティーニをやはりロックでオーダーした。同じくジンをどうするか聞いてくるマスターに「ビーフィーターに変えてください」とお願いした。そしてやはり凛とした美しい姿で、仕上げにレモンの皮をさっと搾って出してくれる。もうここでは大ファンになっている僕だ。ここで「無粋ですが」がこの店では効果大だったことを聞くことになった。
マスターは本来、マティーニをロックでは出さないと言う。僕が申し訳なさそうにオーダーしたから、気持ちよくロックで作ってくださったと言う。「あー、助かった」と心がつぶやいた瞬間だった。そして大事に呑んでくれそうだったからと続いたから、余計にうれしくなった。これ以降は旅人にいろんな話を聞かせてくれ大満足で店を出た。後で調べてみると、大分を代表する名店であり名マスターとのこと。今度来るときはショートでドライとオーダーすることにしよう。人生のお楽しみがまたひとつ増えた。皆さんも大分に出かける時、また地元の方でご存知ない方はぜひここで正統派マティーニを楽しんでみてはいかがだろう!!