ふるさとを失う日に向けて出てくる想い出の品。

お袋が1人で住んでいる実家がなくなる日まで、いよいよカウントダウンとなってきた。狭いながらも我が家で同居できると提案したが、平成7年の3月に親父が逝って以来ずーっと一人暮らしの気楽さを満喫していたせいか、首を縦には振らなかった。だったらせめてうちの近所に来てくれとの願いはなんとか聞き入れて、昭和39年の嫁入り以来続いた荒川区民から大田区民になる。きっと本人は複雑な心境だろうが、時間が解決してくれると楽観しているバカ息子である。

実家から想い出の品が次々と発掘されていて、つい先日は写真の免状が届いた。意外や意外、僕は少年剣士だったのだ。実家向かいの1つ下と、実家の長屋を共有していた2つ下の仲良しトリオで警察剣道に行くことになったのは、僕が小学4年生の時だった。おそらく親同士が仕組んだのだろう。武道で精神と身体を鍛えて、行儀よくしようなんて考えたのではないかな、ムリムリ。

そんな親の企てに乗っかって通ったのは荒川警察署である。毎週土曜日に少年少女に剣道と柔道を無料で伝授してくれていた。夏には都内の警察剣道と柔道のチームが武道館に一堂に集い、団体でのトーナメント戦を行う。僕も選抜されて武道館で試合したが一度も勝つことなく、荒川警察署が1回戦を突破するのを体験することはなかった。弱小チームだったのさ。そんな僕だが先生は熱心に指導してくださり、段を取れと勧めてくれたのだ。

剣道。段。なんだかものすごくかっこよく感じたが、同時にとてつもなく高い壁に感じた。練習に練習を積み合格した時のうれしさったら今もハッキリと覚えている。今こうして免状を手にすると稽古に励んだ日々や、先生からの尊い教えがフラッシュバックする。小学生のガキに残心の大切さや気合とはなんぞやと教えてくれたっけ。僕の心のど真ん中にドーンとある教えがいくつもある。あっ、そうそう。試験の帰りに一緒に試験を受けた友人とインベーダーで盛り上がったなんて、どうでもいいことまで思い出したりした今日だ。

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