江戸グルメ店のススメ。

「母さん、今日は寒いからかき玉にしてくれ」と親父が言い、「はいはい」と台所に立つお袋。僕にとっては冬の原風景のひとつだ。

今年の東京は寒い日が多く、つい先日そんな原風景を思い出し、会社そばにある江戸時代から続くそば屋更科布屋へと出かけた。座るなり、「かき玉そば、大盛りでお願いします」とオーダーだ。ここのは少し変わっていて鳥の竜田揚げが乗って、親子かき玉を名乗る。とろみのついた極上の出汁にたっぷり玉子がフワフワと浮いていて、熱々の鳥がアクセントになる。薬味は定番のネギとこのメニューにはおろし生姜が添えられていて、まずは薬味を入れずにフワフワ卵と出汁をフーフーしながら口に運ぶ。お袋には申し訳ないが断然うまい。二口三口楽しんだら薬味を入れる。ネギはもちろん生姜の香りがさらに深みを与えてくれ「あー、絶品だ」と唸りながらいただくのだ。

カレー南蛮はどうしても食いたい時は夏でもオーダーするが、こいつは寒い日にしかその気にならない。それほどの熱々なのだ。そして食うたびに前述の親父のセリフを思い出す。やれやれ、歳をとったものだと思いながらだんだんと汗がにじみ出てきて、冷えた体はすっかりポカポカになった。最近の寒さで今シーズン初の冬のごちそうに世話になった。これより2月まではこいつが大活躍するのだ。

この老舗そば屋は増上寺の参道にあり、大晦日の夜まで営業を続けているから冬休みに出かけてみてはいかがだろう。安くはないが、たまに見かける勘違い老舗とは違い庶民派である。メニュー全般、東京の普通のそば屋の100円増しくらいだろうか。お味も華美なことなく、分類としては僕が好きな普通のうまさで、“たまたま”江戸から続いているという感じがいい。昭和、いや、江戸のグルメを寒い年の瀬にぜひどうぞ。

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