酉の市は正月へと向かう祭り。

酉の市は江戸時代より浅草の長国寺境内の鷲神社で行われていて、熊手に新しい年の運をかっ込む、福をはき込むと、開運招福や商売繁盛を願うお祭りだ。色とりどりの飾られた熊手を、見ているだけで楽しい。僕の実家は歩いて15分ほどで行けるため、家族で必ず出かけたものだ。ここ以外の神社でも行われているが本家は鷲神社だと、地元びいきの僕はそう言い切る。

11月に行われるから、いよいよ年の瀬だという気分を呼び込んでくれる。芭蕉の弟子其角が「春を待つ 事のはじめや 酉の市」と詠んだそうで、正月を迎えるための最初の祭りというのはなんとも気分がよろしい。

熊手の買い方には粋な話がある。いくつも軒を並べる熊手の店の威勢のいい兄ちゃんと値段交渉をするのだ。つまり値切るわけだが、値切った分は「ご祝儀でいっ」と結局は元値で買うというのが本道である。最近では若い人たちに「安くするから」と言ってくれる親切なところも増えたが、我らおっさんは江戸っ子たちの粋な文化を受け継ごうではないか。せっかちな江戸っ子にはそもそも値切るという習慣がない。が、この祭りではこうした押し引きを粋に楽しむのも江戸っ子で、遊び心に満ちているからだ。と、小学生の頃親父に教わったこの話が大好きで、隙あらば人にご紹介している僕だ。

『東京モーターショー』で見つけたこの特大熊手は、知らない人には冗談かと思われるかもしれないが、酉の市ではこのサイズのものがわんさかある。そこには大きな企業名が入っていて、まるで企業広告である。江戸から続く老舗企業やメーカーがあれば、大手広告代理店や芸能プロダクションなんかのもあり、こうした縁起を担ぐ企業ってのが嫌いでない僕はうなづきながら眺める。これでもかっと並ぶ屋台も楽しくて、一杯やるのもおつですな。今年はポスターの通り三の酉まであるから、江戸自慢の祭りに出かけてみてはいかがだろう。

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