アーニーボールの弦と30年ぶりの再会。

「ブチッ」
何度聞いても嫌な音である。エレキギターの弦てのはちょくちょく切れる超がつくほどの消耗品である。下手くそというのもあるが、高校時代からブチブチと切るタイプなのは常にでっかい音を出したいという気持ちが雑な弾き方になり、今日も明日も弦を切る。そんな僕だからストックは常に万端である。が、つい先日のこと「あちゃー、なんてこったい」と頭を抱えた。最近ギターを弾く時間が増えて、その分切るペースも上がっていたのだ。ここで僕は禁断の扉を開けてしまった。

音楽に関わるものはもちろん、買い物全般極力ネットに頼らず動くようにしている。無駄に見えるような時間の中に、悩ましい選択だったり発見があるからだ。ほしいCDがあればわざわざ渋谷まで行く。仕事まっしぐら(!?)の僕には、新しい音楽をじっくり吟味する時間があまりないから、渋谷タワーレコードの視聴コーナーは至極便利である。年に数度渋谷へ出かけては、知らないミュージシャンのタイトルに手を出すのだ。書店も同じ。欲しいと思う書籍や雑誌の情報を得て出かけるが、簡単にはレジへは運ばない。何冊も手に取りパラパラ見てからレジに運ぶから目的の本を買わないこともしばしばで、そこに発見があるのがいい。僕らのリリースする雑誌もそうやって吟味されているはずで、レジへと運ぶ決定打みたいなものを常々探すのは職業病だな。

ギター弦弦が切れた今回、頭を抱えた直後には楽器街へと出かけようとワクワクし始めていた。中坊の頃より慣れ親しんだ東京の楽器街、御茶ノ水はまるでおもちゃ箱だ。弦を買いに行ったつもりがついつい余計なものに手を出し、いつの間にかギターを買っちまうなんてこともあった。最近はさすがに大人になったのか、ギターの誘惑には勝てるようになったが、胸の高鳴りはガキの頃と変わらない。そんなワクワクを制止したのがギッシリと埋められたスケジュール帳だった。じっくりと御茶ノ水散策できるのは少なくとも1ヶ月先になっちまう。そこでついPCを開いて買ったのがこれだ。2セットしか買わなかったのは御茶ノ水散策に行きたい意地が現れている。

リアル店舗だとこのアーニーボールよりずいぶん安くて、わりと使い易い弦があるからしばらく遠ざかっていた。ところがネットの中ではほとんど値段が変わらないから、久しぶりのこのセットを買ったのだ。おそらく30年以上使っていなかった銘柄で、思わず中高生の頃へと得意のタイムスリップだ。

ガキの頃はもっとも好きだった銘柄だ。使っている憧れのギタリストが多く、このグラフィックも大好きで愛用したかったが、金のないガキは楽器屋のオリジナル弦を使っていた。1セット500円は他の弦に比べたら格安で、それさえ切れるとうまくつないだりしていた。つないだ弦はすぐ狂うから頭にくるものの音に敏感になり、それはそれで修練になる。そして大きなライブがあるという時には、清水から飛び降りて御茶ノ水へと走り、このアーニーボールを買ってくるのだ。今より当時の方がグーンと高いのは、まるでジャック・ダニエルだぜ。翌日のライブがうまくいくように祈るような気持ちと緊張で張る。と、そんな日々を思い出させたのは禁断の扉を開けたからだ。いやいや、でもやっぱり買い物はリアルに限る。待ってろよ、御茶ノ水!!

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