ナポリタン vs ミートソース。

我々にとっては究極の戦いといってもいいだろう。だがよくよく考えると、この2品が僕を悩ませるようになったのはおっさんになってからだ。ガキの頃はミートソースは究極のご馳走で、ナポリタンはそこまでいかない位置付けだった。当時は外食なんてのはイベント中のイベントでスパゲティは家で食うものだった。ナポリタンはケチャップのみを使ってマッシュルームなんて小洒落たものは入っておらず、手をかけて煮込んでくれるミートソースとは格が違ったのだ。だがおっさんになるとケチャップ味が妙に心に響くようになる。理由はわからんがともかくおっさんになるにつれナポリタンの格が上がった。

ナポリタン最近僕を虜にしている『浅草 水口食堂』で、前回ナポリタンをいただいた。この時ミートソースもラインナップしているのにナポリタンをオーダーしたのだから、僕にとってナポリタン優勢に傾いているのかもしれない。そしてこの日、次回来た時には必ずミートソースをオーダーすることを誓った。

静岡から大切なお客さんがみえる。ささやかな宴を開くことになり、昭和の食堂でいいのだろうかとの葛藤はあったが、きっと気に入ってくれると水口に行くことにした。せっかくだからと浅草寺で手を合わせて、若干の遠回りでミニミニ浅草観光を楽しんでもらい、いよいよ昭和遺産(!?)の『浅草 水口食堂』に着いた。この一角はまさしく昭和にタイムトリップで、何軒かの店が昭和テイストを目一杯吐き出している。これもお客さんには喜んでもらえ、宴への導入は完璧だった。

ミートソース名物料理の数々をオーダーしては平らげた。口に運ぶと歓声が上がるのが、セッティングした僕には嬉しい。みなさんお腹が膨れてきて、締めにはナポリタンを選んだ。絶品に歓喜する面々。この日のミートソースはお預けだなと諦めかけていた時、1人の男がミートソースを食べたいと言い出した。同意を求めると是非となり、締めメニューのアンコールを待った。

やがてテーブルに届くと高校時代に茶店で頬張る僕がフラッシュバックした。麺は玉ねぎとピーマンと一緒に炒めてあるアレである。アルデンテなんて言葉は知らず、スパゲティをイタリアと結びつけられなかったあの日にタイムスリップだ。「うっ、うっ、うっまーい」と一同は、大満足と満腹で締めたのだった。

この店の2大スパゲティ対決は引き分けだ。ここまで素晴らしい昭和テイストに、甲乙つけられる奴がいたらそいつはよほどの決断力があるといっていい。昭和25年創業の重みを、またも見せつけられた夜だった。

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