突如として僕の意識を襲う日がある。「ナポリタン食いてー」と。一度念じてしまったらもう決して逃げることはできず、自らにミッションとして課す。ダイエットもへったくれもなくなり、ただただ野獣のごとくフォークを持つのだ。ああ、ナポリタン。昭和40年男にとって甘美な単語であり悪魔の囁きである。
てなわけで、浜松町駅にある大盛りナポリタンをキャッチにしている店へと向かったが、別を探してみようと貿易センタービルの地下食品街へと方向転換した。古き良き食品街だから、きっとあるだろうと店が掲げるランチメニューを見ながら歩くと思った通りあった。ドリンクバー付きで大盛り無料の850円。しかも懐かしのナポリタンとの名称だ。この誘惑に勝てる昭和40年男は果たしているのだろうか? と、ダイエット中の自分を正当化しながら、座るなり大盛りをオーダーしたのだった。
待つこと数分。きたーっ、オレンジ色の憎いやつ(古っ、夕刊フジのCM)だ。僕は野獣と化し口へとフォークを運んだ。心の第一声は「うーん、ケチャップ」だった。最近ナポリタンを食わせる店が増えているが、ここまで懐かしいというか工夫の少ない直球は珍しい。高校時代によく通った三ノ輪駅近くの茶店に、こんな味のナポリタンを食わせる店があった。毎度のタイムスリップを楽しんだ僕だ。ただ、あの日のぷよぷよしたソフト麺のようなものでなく、しっかりとコシがあるのはその意識を少しだけ冷ます。昨日茹でて放置したようなのが食いたいなと思いつつ食べ進めていくと、大盛りナポリタン特有の“飽き”が生じてきた。そんなのはもちろん想定内で、まずは粉チーズを振る。これにも“飽き”が生じてくるとタバスコを振る。「ふっふっふ、これがナポリタン三段活用だぜ」と当然ながら完食した。
会計を済ませ、野獣でなくなった自分を虚しい気持ちが襲う。
「もう二度と大盛りナポリタンには手を出さない」
毎度こう誓う。重くなった胃袋と後悔の念が、大盛りナポリタンを食った後には必ず自分をやるせなくさせる。だか数ヶ月に一度、必ずこうして後悔しているおバカで懲りない昭和40年男である。やれやれ。