僕が生まれ育ったのは東京下町荒川区だ。常磐線の三河島、千代田線・京成線の町屋、日比谷線の三ノ輪が徒歩でそれぞれ10〜15分程度かかるから便利なんだか不便なんだかわからん立地に実家がある。高校が秋葉原にあったため、もっとも多感なハイティーン時代は三ノ輪駅を使っていた。
三ノ輪駅から数分のここが当時より僕が大好きな場所だ。三ノ輪駅を出て国道4号を南千住方向へ進み、常磐線のガードをくぐって少し行った左側だ。この写真の場所の角には中坊の頃より通った立ち食いそば屋の名店『長寿庵』がある。この屋号を使っている立ち食いそば屋に誇りを感じるじゃないか。直球ど真ん中の昭和立ち食いそばは、昨今のチェーン店では味わえない“ホンモノ!?”だ。立ちジャンキーの聖地のひとつと言っていいだろう。さらにかつてはここと肩を並べる名店、この写真奥にはもう一軒立ち食いそば屋があり、僕の立ちデビューはそちらだった。甲乙つけがたい店を僕らは贅沢に使い分けていたのだ。
と、そんな想い出に浸りながらこの道を奥へと進んでいく。左手に醤油ラーメンが絶品の中華料理屋があったのだが残念ながら店をたたんでいた。赤い暖簾の、おっさんならばの心の原風景のひとつとも言えるラーメン屋である。立ち食いそば同様、チェーン店を愛せない時代遅れの僕にとっては最高の店で、バイク雑誌で無理やり取り上げたとがあるほどの贔屓だった。実はこの日、ここを訪ねようと思っていたのでショックが大きかった。
看板の入り口とあるとおり奥へと進んで行けば都電荒川線、僕にとってはチンチン電車の三ノ輪駅がある。装飾でないレトロをたっぷり満喫できる風情だ。駅に向かって右に進むと世界一(!?)の商店街『ジョイフル三ノ輪』がある。ビール片手に買い食いしながら歩けば最高の休日になるだろう。ちょうど真ん中くらいに藪、更科と並んで3大そば系列の源流のひとつで、江戸時代より続く砂場がある。「えっ、なんでこんなベタベタな商店街に名店が」ときっと驚くだろう。だが歴史を知らなければ気軽に入れる街そば店である。「そばってのは、庶民の食いモンよ」との声が店構えから聞こえてきそうで、そんな江戸っ子の気風を満喫できるはずだ。
僕のハイティーン時代に比べるとやや勢いはなくなってしまった『ジョイフル三ノ輪』だが、チェーン店率の低い昭和な商店街はおっさんたちを素晴らしい時間旅行へと誘ってくれる。散策を終えたらチンチン電車で小さな旅を楽しんでくれ。と、週末っぽくタウンガイドでした。