最近の涙腺のゆるさといったら情けないほどで、親父はきっと空の上でやれやれと見ていることだろう。「男の人生は3度しか泣いてはならぬ。産まれておぎゃっと泣くのと、親父、お袋が逝った時だ」とのセリフを刷り込まれた。そんなに強かなかったが、ガキの頃は泣くことは男の恥であるというのが絶対的な意識で、学校で泣くことは男の地位を著しく下げたものだ。
先日、ヤマハ発動機スポーツ振興財団の設立10周年を記念して宴が開かれた。我が社は微力ながら設立当時からこの財団の手伝いを仰せつかり、やりがいを持って今も取り組んでいる。とはいえ、本当に微力なものでこの宴に参加していいのか迷ったが、そこは騒ぎ好きの僕で図々しくも出席した。
この財団は、ヤマハ発動機の設立50周年記念事業として、スポーツを通じた人材育成をテーマに設立・運営されている。この立ち上げにバイク関連の仕事で長年世話になった方が事務局長として携わることになり、光栄なことに声をかけてくださったのだ。仕事をさせていただいたこと自体もありがたいが、何より公益財団の設立というまったく未知の世界を傍で見られたことは人生に大きなプラスになった。大雑把な言い方であるが、国家社会に貢献することを合言葉に設立され、そこにヤマハらしいチャレンジスピリットという色を加え、実際の運営では熱い魂を込めていく。設立メンバーにとってすべてが未知のことでありながら、カタチが少しずつ作られていくのを間近で見ながらご苦労を聞き、問題をクリアしていく突破力の練上げ方を学べたのだ。
この日は素晴らしい宴になった。財団の姿勢や心が表われたからだろう。挨拶には財団へのそれぞれが待つ愛情や情熱がこもり、聞いている者の心を打つ。参加者たち一人ひとりに同じ気持ちがあるから、拍手や笑いにあたたかな連鎖が出来上がり輪になるような感覚だ。ヤマハ発動機の現社長の挨拶も、普段聴く大企業のトップのものでなく、国家社会に貢献している公益財団を率いる男の言葉だった。そして初代理事長であり元社長の挨拶では、前述の僕が世話になった男へのコメントが織り交ぜられ、ここで僕の涙腺はぶっ壊れた。讃えられた本人は涙を見せないから思わず「よく泣きませんね」と声をかけた僕だった。まあ、この日寝るときには枕を濡らしただろう。
設立10周年おめでとうございます。深い感謝とともにお祝い申し上げます。