ロンドンの火災の映像は怖かったですね。火ってのは恐ろしいものですな、気をつけましょう。
火事といえばこの春のこと、浅草でひいきにしている呑めるそば屋『十和田』の隣で火が出た。火事の情報を得てこれは行かなければと、その晩友人を誘い見舞いに出かけた。店には焦げた匂いが充満していて、そこに見舞い客がごった返していた。地元で長く愛されている店だからよそ者は僕らだけだったかもしれない。次々に見舞いの一升瓶を持ってくる人が絶えず「行くことが見舞いだよ」と僕が言ったせいで手ぶらとなった我々は肩身が狭かった。こういった時の浅草の結束力をまざまざと見せつけられて、よそ者はそそくさと店を出たのだった。
火を出してしまった隣の店『あづま』も、ちょくちょく世話になった店で純レバ丼が看板だ。こちらも長いこと浅草で商売している。痛風に怯えるようになってからは、純レバ丼は食わずもっぱらしょうゆラーメンだ。旨味たっぷりでいて、いかにも昭和のスッキリ味はおっさんに優しく染み入る。ちなみに純レバとはレバのみを炒めてある料理で、レバニラ炒めに対して純粋にレバのみということだろう。そこに刻みネギがのっていて、丼はもちろんつまみでもよしの一品だ。
つい先日、見舞いで肩身の狭い思いをして以来となる『十和田』に出かけて舌鼓を打ち鳴らした。その帰りに気がついたのが写真の寄せ書きと貼り紙である。半焼状態の店はシートで覆われて、復活を望む声が多く書かれていた。火事見舞いといい東京下町はよい。あたたかい人情がドスンと中心にある。
寄せ書きされたシートには店主と家族名義でお詫びが貼ってあり、今後のことは書いていない。だが、ぜひ復活させて未来永劫、昭和のラーメンと純レバ丼を作り続けて欲しいと願う。多くを失って大変でしょうが、ファンたちの期待と地元の人情に応えていただきたいものだ。
このすしや通りをまっすぐ北に行って言問通りを渡ったところにこの店の家族がやっている店があります。もちろん純レバも食べられます。