俺たちは野球世代だ。僕が編集長時代にはこんな特集を組んだほどだ。小学生低学年の頃より、ブラスチックのバットとゴムボールで野球もどきから入り、やがてグローブをねだるようになり成就する。放課後に公園や空き地にクラスメイトと集ってキャッチボールやゲームをプレイする。野球チームに所属する者も多く、上手い下手がそのまま男たちの格付けになるような小学生時代だった。『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』といった梶原作品はもちろんのこと、スポーツ漫画といえば野球を舞台にして、ど根性をテーマに描かれるものが圧倒的に多かった。野球には夢とロマンがギュウギュウに詰まっていたのだ。
ついさっき、そば屋でスポーツ新聞を広げていると驚愕の記事を見つけた。今季は成績が振るわないジャイアンツがノーヒットノーランを達成したと。それも継投で。「へっ?」と、思わず声に出そうになった。なんじゃそりゃと読み進めると、FAで鳴り物入りで入団したはいいけれど故障してしまい、昨日が初登板だったとのことだ。そんなコンディションに加えて100球を超えたところだったから判断したとのこと。「へっ?」と、なんだかバカバカしくなってきながら読み進めていくと、ノムさんのコメントがあった。私なら代えないと。もしも本人が交代を申し出てきても1本打たれるまでは投げろと言うだろうと。
くどいが、野球には夢とロマンがギュッである。ノーヒットノーラン達成はその中でも最上級のひとつだろう。それを取り上げるとはなんたることだと僕もノムさんに同感である。さらに、投手が感激の涙を流している写真が掲載されていて、これも僕のようなスポ根バカ野郎にはまったく理解できない。夢を目前にしての6回降板なのだから、本来なら悔し涙だろうがと思ってしまう。まあ、それだけ苦しんだのだろうが。
こんなことで怒るのは現代人には理解できないかもしれないが、同世代諸氏はおおよそノムさん側というか僕と同じ主張でなかろうか。投手生命をかけて魔球を投げ続けた星飛雄馬に感情移入した俺たちだ。でも、今あんな世界を少年誌に掲載したら社会問題だろうな。昨日もむしろ投げ続けさせたほうが問題視されていたかもしれない。豊かになった社会は脆弱な要素もたくさんもたらしていて、おっさん特有の憂いを感じている今である。
消える魔球とカーブを使いすぎるとシラケるが 持ち主がやるのに文句いえず 金持ちはいいなと思いました。