女房のいないある夜、冷蔵庫を覗き込む冴えないおっさんが一人。いくつかの食材を取り出してちゃっちゃと用意したのがこの食卓だ。手前がキュウリと茹でたオクラ。左の人参とパプリカのスティック。その右はキムチと刺身こんにゃくである。冷蔵庫から何も考えず食えそうなものを並べたら、見事に赤と緑に分けられた。おっさんはこうした偶然を笑いつつ喜んだりする。
こんなのをポリポリしながら焼酎を呑る。つかの間の休息は体と心の疲れを取り除いてくれた。できればもうちょっと栄養のあるもので休めてあげたいが、一人だとすげー適当になる。まるで修行僧じゃないか。
大阪に住んでいた昭和60年を思い出した。まだ痛風とは無縁のビール好きで、一人の部屋で今宵は飲もうとなると大瓶5本を購入してくる。つまみは茹でたもやしとか、100円で売っているたこ焼きとか、質素なものだったがビールさえあれば幸せだった。僕は今も昔も呑むならとことん呑み、呑まぬなら1滴も呑まぬを貫いている。当時はひどい金欠だったが、ごくたまに決断するとひたすら呑んだものだ。一人の部屋でいろんなことを考えながら過ごす時間は、ガキなりに特上の時間としていた。つまみなんかなんでもよかったのは、このポリポリの夜と変わらない。
四畳半一間のオンボロアパートでの幸せだった。あれから30年以上が経っても変わらないのは、特上の時間は心のままに訪れるということで、デコレーションはさほど重要じゃない。家族だったり、大切な友との時間だったらなおのこと、心のままに夜は幸せで満ちる。さあ、今宵も『浅草秘密基地』でたくさん笑うとするかな。