一足早い母の日。

この時期の土日は全国津々浦々で開催されるイベントに出掛ける。平日は性能のよくない頭をフルに使う仕事に精を出し、土日になると現場で大声を出したり走ったりで大忙しになる。双方まったく違う内容の仕事だから、うまく疲れを逃し合えるのがよい。だが、土日のプライベートな行事はこなせなくなる。今週末の母の日も当然のごとく潰れているので一足早く親孝行した。

「浅草に評判のいい肉屋があるからすき焼きしよう」と、雷門からほど近い『松喜』で肉を買い込んだ。『浅草秘密基地』の舞台となっているショットバー 『FIGARO』のマスターも太鼓判を押す肉で、店同士が近いから懇意にもしている。僕もご主人夫婦と何度か顔を合わせていてとても気持ちのよいご夫婦だ。そんなことから、いつか『松喜』の肉ですき焼きと夢描いていたのがやっと実現した。

女房含めて3人の年寄りは肉の量はさほど必要ない。特上とはいかないが、500グラムを購入して荒川の実家へと向かった。先日喜寿を迎えたお袋は最近さすがにガタが見えてきた。ちょっと前まで鉄人だと思っていたが腰が痛そうで、なんと今回は前歯が抜けていた。煎餅を食っていたら抜けちまったとのことで、そのせいもあってか何度も「歳を取ったよ」とつぶやいている。「そんなこと言ってると元気が逃げるぞ」とその度に言わなければならないのがちょっと寂しかった。そしてすき焼きを食いながら「幸せだねえ」とも繰り返す。ささやかな親孝行をしてよかったと心底思った夜だった。

同世代諸氏にとって親の問題は深刻で、悩みや心配事をちょくちょく聞く。と同時に、親孝行の頑張りや努力もよく聞く話でいい影響を受けている。今回重い腰が動いたのはそんな友人のおかげかもしれない。見えなくなるまで見送っている小さくなっちまったお袋を家に1人残して帰路につくのは心が痛く、また来ると誓いながら手を振った親不孝者である。母の日はすまんなあと心で詫びながらだ。

さて、1ついい情報がある。『松喜』のチャーシューが実にうまい。味がしっかり染み込んで噛み応えのある、昭和のチャーシューだ。近くに出かけた時は買い求めてはいかがだろう。