昨日居酒屋について書きながら、僕を大きく育ててくれた上野の居酒屋「五右衛門」のことを思い出してあったかい気分になった。
嘘っぱちの履歴書 (すぐバレたが) で17歳より居酒屋で働き始めた。家と近いからチャリンコで通うこともしばしばあり、0時にタイムカードを打って時間を気にせず遊べた。そこで僕は大人の階段を上り始めたのだ。正確な年齢は忘れたが (笑) 、まだまだくちばしの黄色いガキが一人で暖簾をくぐる快感を知ってしまった。店長に連れて行ってもらった寿司屋では、板さんに惚れ込んでしまい次の給料日に一人で暖簾をくぐった。ドキドキしながらエイヤっと入ったのは新鮮な記憶だ。そしてもう一軒、エイヤっだったのが居酒屋「五右衛門」である。
品のいい面構えに何度も誘われ、ある日覚悟を決めて暖簾をくぐった。おおーっ、大人の世界じゃと唸りながらカウンターに座り瓶ビールを頼んだ。寿司屋と同じく激しく緊張したものだ。やがて店員さんが話しかけてくれて、近くの「あいうえお」でバイトしていることを告げるとさまざまな話が弾み、僕はこの日より常連の一人になった。
慣れてくると他の常連さんたちに可愛がってもらった。そりゃそうだ。なんてったってガキだもの。でも真剣にご自身の仕事のことを語ってくれたり、説教してくれる方もいたりと貴重な日々を積み重ねた。近くに飲食店をいくつか展開する会社の専務さんやラブホテルの受付で働く親しみあるおいちゃん。飲み屋で客の相手にうんざりして入ってくるホステスさんや風俗の姉さんなんかもいて、ガキには刺激ばかりだった。こうした癖のある常連たちをさばく経営者を含んだ店員さんたちのキャラが、この店の何よりの味付けだ。彼らは4時に閉店すると僕を誘うことがしばしばあり、おごってやるの言葉にホイホイついていく。世の中は広い。9時近くまで飲める店がたくさんあったのだから。そして若干の仮眠で翌日 (当日!?) の暮らしを取り戻せる若さってのは素晴らしい。
深夜の「五右衛門」は笑いであふれていた。とくにラブホの受付のおいちゃんが語る、毎日のように起きるカップルたちの驚愕な行動がおもしろおかしく語られて、深夜に仕事を終えた者たちのつかの間の休息を盛り上げてくれた。残念ながらもう25年以上前に店は無くなってしまったが、僕の心にはしっかりとみんなの笑い声が残っている。僕に才能があればあのドタバタをベースにした小説でも書くのだが、まっ、老後の楽しみかな。