男は黙ってサッポビールとは、俺たちがまだ小学校にも上がっていない頃に採用された名コピーだ。昭和45年のことだったそうで、世界のミフネを起用した強い広告だった。親父がこのコピーをえらく気に入っていて、僕によく噛みくだいて言い聞かせてくれたっけ。なかなかその教育どおりにならず、50歳を過ぎたってのにピーチクパーチク泣きまくっているのは情けない。
男らしさの変化は激しく、現代では男らしさとはなんぞやと議論することさえ封印されがちな社会であることに昭和のおっさんは息苦しくてならない。当時とは違った意味で、男は黙ってサッポロビールを貫くしかないのかな。そんな現代において、この男の行動はまさしく男は黙ってサッポロビールである。
今場所横綱に昇進した稀勢の里である。相撲道という精神が変化している中で、彼にはしっかりと受け継がれている。昨日はケガを押して出場を強行した。何も語らず土俵に立つ男の姿は、結果を知った後のVTRで見た映像ながら涙があふれた。まったく相撲にならないほどだったから、かなりの重傷だろう。聞けば土俵入リの柏手の音が極端に小さかったというじゃないか。おそらく動かすのがやっとで、僕が見た情報バラエティでは筋肉が断裂しているのではないかとのことだった。そんなんで相撲を取れるわけがないのに男は黙って出場を強行し、取組後には「やるからには最後までやりたい」と語っていた。女々しくて弱い僕に強く強く突き刺さったのだった。
今日の相手は大関照ノ富士で、優勝をかけての一番になる。が、昨日の映像を見る限りとても相撲になる気がしない。大関は久しぶりに絶好調である。同じく昨日の一番をVTRで見たが、とんでもない立ち合いの変化をした。男とか大関とかがまったく当てはまらない相撲を取る男だとガッカリした。そんなひん曲がった力士を堂々と倒してほしかったが、なんせ重傷である。
今日も東京モーターサイクルショーの現場で、残念ながら中継を見ることはできない。夜のスポーツニュースで見ることになるだろう。今は健闘とケガの悪化をさせないでくれと祈るばかりだ。タメ年男のみなさん、どうぞ僕の代わりに見届けてほしい。男の中の男がどんな魂を見せてくれるのだろうか?