魚のピンチを嘆く昭和40年男。

「魚がえらいことになっているんですよ」と、行きつけの料理屋の親父たちはぼやく。「何十年と築地に通っているけど異常ですよ」とも。ここ近年聞き続けてきたセリフではあるが、今年はとくに危機的状況だと叫ぶ。そりゃそうだ、台風が日本の近海で発生するなんてまるで亜熱帯だし、異常すぎる気象をみなさんも肌で感じていることだろう。水温の1度は気温とは比べ物にならないインパクトを生態系に与えるらしく、昔太平洋側で獲れていた魚が日本海に移っちまったなんて話もちょくちょく聞く。いい材料が手に入らないのは料理人にとってつらい以外のなにものでもない。客にうまいものを食わせるのが仕事であり、生き甲斐のように思っている男たちとばかり付き合っているから痛いほどわかる。いっそ店を休みたいと言うが、厳しい個人店にそんな余裕があるはずがない。

%e3%82%ab%e3%83%84%e3%82%aa家族の食卓も直撃だろう。秋の到来で楽しみにしているサンマは、今のところバカらしいほど高くて見送っている。先日、このうまい戻りカツオにありつけたが、超目玉セールとして並んだもので、安くてうまいカツオにはなかなかお目にかかれない。近海の青魚たちはもう何年かすると高級魚になるだろう。実際、サバなんか高級魚の価格になっていることがしばしばある。

稚魚の乱獲が問題になっているうなぎなんて、もう手が出せないものになっていて、奮発すれば買えるという価格帯から完全に逸脱した。昭和の食卓では、庶民の夏のご褒美だった。「今日は奮発しちゃったのよ」と小学生の頃の家族団らんを盛り上げてくれた。「お父さんが疲れているからね」とあくまで父親を思いやってのもので、その裏にはガキどもに「お父さんが暑い夏の日に汗をかきながら頑張っているおかげでありつけるのよ」とのメッセージが込められていた。

さて将来、俺たち昭和40年男は孫たちを前にしてぼやくのだ。「昔はサンマを1人1匹ずつ食えたんだぞ」なんて。前述の馴染みの店では先日「今日は久しぶりにいいイワシを見て思わず仕入れました。完全に赤字ですよ」なんて、心意気だけで食わせてもらった。東京オリンピックで世界からのお客様に食わせる寿司ネタは、どうやら輸入ものと養殖ばかりになるだろう。江戸前寿司なんて名ばかりと言われかねない状況が、日に日に深刻になってきた。養殖はもはや仕方なしで技術向上を目指しつつ、乱獲防止とセットで日本の味を守っていただきたい。関係諸氏の奮闘に頼るだけなのが歯がゆいばかりだ。

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