先日出張の際に、大阪梅田界隈で迷子になっていると揚子江ラーメンの文字を見つけた。「おおっ、コイツは懐かしい」と思わず入店した僕だ。大阪に移り住んだときに愛した一杯である。昭和60年の春のことで、金がなかったから滞在中に2回しか食えなかったと記憶しているが、うま味たっぷりのサッパリした塩味のスープはそれまで出会ったことのない味わいで、その後も出張の時はちょくちょく寄っていた。『揚子江』を名乗る中華の店は多くあるだろうが、当時の店の移転先に違いないとメニューを見て確信した。少し以前の出張時にかつてあった場所からなくなっていて、閉めたのだなと残念がった僕だ。どっこい移転して奮闘を続けていたのがうれしい。
相変わらずのさっぱりラーメンに舌鼓を打ち鳴らした。今のようなラーメンシーンになるとは誰も予想していなかった昭和60年の衝撃がよみがえった。その後ラーメンはブームがブームを呼びご周知の通りだが、ここの時計はまるで止まっている。残念ながら価格だけは若干進化してしまったが、それでもこのラーメン610円は良心的だと思う。うまいスープは当然すべて呑み干して大満足だ。
それにしてもまだ10代の頃にこんなスッキリを愛していたなんて、当時からまるでおっさんじゃねえか(笑)。噂に聞いていた関西風の出汁も本場で味わって感動した。今のように東京で気軽に関西風のうどんは食えなかった頃で、さすが関西だぜと頷きながらすすった日々がこれまた懐かしい。思いがけず当時の舌の記憶が芋ズル式に引っ張り出された。たこ焼きやお好み焼きにも何度もほっぺたを落とされたものだ。とくにたこ焼きは住まいの近所に安くてうまいところがあり、バイト帰りに100円分買ってビールと楽しんだ。うーむ、これもずいぶんとおっさんだなあ。
いつ訪れても大阪はあの日をフラッシュバックさせてくれる。梅田や天王寺界隈の変化にはビックリさせられるが、どっこいこうした昭和を残そうとする大阪人の気概をいつも見せてくれ、おっさんの心と腹を満たしてくれる。僕にとって2番目のふるさと、スイート・ホーム・大阪である。