向かうところ敵なしのそば好きである(なんじゃそりゃ)。そんなおっさんにとってうれしいメニューが夏限定の冷やしでたぬきだ。たかが揚げ玉、されど揚げ玉である。天かすと呼ぶ方々を僕は許さない(笑)。ごま油が多いか少ないかで大きく差が生じておもしろい。年中冷やしたぬきをラインナップしている無粋なところは嫌いで、ここのように初夏の訪れとともに供する店が好きだ。
このブログでそばネタになると度々登場する、我が街浜松町が誇る老舗そば屋『更科布屋』の冷やしたぬきはご覧の通り美しい。少々お値段が張り850円だ。カレー南蛮が800円。天丼やかつ重、親子丼とそばのセットが920円だから、バランス的にはやや高めの設定に思えるが、きれいに切り揃えられたキュウリに錦糸卵、そしてうま味たっぷりに炊いた椎茸が上品に盛りつけられている。薬味にネギだけでなく大葉も加えるちょっとした気遣いなど、コストパフォーマンスはむしろ高く感じさせる。月曜日と雨の日は大盛り150円がサービスになるから狙っていけば、コスパはより高くなるぞ(笑)。
江戸時代から続く店のわりにファンキーなメニューが並ぶのもこの店を愛するゆえんである。屋号を冠した冷やし布屋というメニューは、鳥挽き肉のそぼろが乗り錦糸卵と相性抜群だ。豚の角煮とネギがドンと盛られた冷やし角煮なんてのもラインナップしている。老舗は革新を繰り返してこそ老舗なのだと教えてくれる店で、温かい汁そばには野球なんて楽しいメニューもある。おばチャンたちがテキパキと働く姿も気持ちいい、僕の大のお気に入りだ。季節限定メニューも多く夏は夏なりに、冬は冬なりに楽しませてくれるのがうれしい。老舗そば屋ならではの10割そばや、そばの実の中心だけを使った真っ白い更科そばなんていう、そば道の中央を真っすぐに貫いたメニューがありながら野球もラインナップするのだ。ちなみに天ぷらとゆで卵をバットとボールに見立てるから野球だ。おかめそばの展開バージョンと思っていただければ、そば好きたちは頷くだろう。
老舗がそののれんにただ甘えることなく、こうして努力する姿を江戸ではしばしば見受ける。そのたびに僕は、仕事において目指すべき道なんだとフンドシを締め直す。革新とスピードを突き詰めることを否定しないが、経験豊富だからこその創意工夫はおっさんが放つべき技ではあるまいか。と言いつつ、結局『更科布屋』ではコンサバメニューばかりを頼んでいる僕はダメじゃん(笑)。