おっさんの喜び。

湯豆腐2「そろそろ最後かねえ」と言いながら、婆さんに嘆願するこの時期の湯豆腐だ。婆さん、いやそんなん怒られる。女房も好物だから付き合ってくれるが、さすがにコンロにかけっぱなしで楽しむ鍋は熱く暑い。とっくにシーズンオフのはずが、爺さんの説得でつい先日も楽しんだ。

このシンプルな組み合わせが最高のハーモニーを奏でるのはうまみの相乗効果からだ。鍋には昆布がたっぷりと入っていて、真ん中の付け汁は鰹節とネギと醤油のみ。それらが豆腐を包み込んで合体する。昆布と鰹のうま味に、醤油だって大豆のうま味がしっかりと醸成されたものだ。ウーム、うまい。つい先日にはシーズンファイナルと誓ったが、その気持ちがすでに揺らいでいる。

我が家の湯豆腐はきのこを数種類と塩タラを用意する。魚に雪と書くほどの冬が旬の魚で、春になるとうまいタラが手に入らず、暑さ以上にそちらがシーズンオフとなる大きな理由だ。豆腐と同じく、昆布の出汁によって火が通されたプリプリの身に中央のつけ汁が合わさるとまさしく絶品である。「ああ、日本人でよかった」と深く深く感謝する瞬間だ。

蕎麦の付け汁だって、煮物だって、ベースで鰹節と昆布のコンビは大活躍する。なんといっても素晴らしいのは、油が浮いていないスープだということだ。僕の少ない外国経験ながら、こんなベースの料理に接したことはない。油はうまさでもあり、そこに頼るのは当然のことだが、おっさんたちの主食(!?)のもりそばなんてまったく油が浮かないじゃないか。これはもっと誇っていいことだと常々思う。

「ああ、日本人でよかった」と思う瞬間はたくさんある。普段いただいている食事もまた然りで、恩恵にもっともっと尊敬の念を抱くべきだろう。それはおっさんの主張に、きっとうまく繋がるはずだ。

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