「あのさっ、京都のお寺(源光庵)の丸い窓。あのイメージでひとつ作ってよ」
毎週月曜日の読者さんとの集い『浅草秘密基地』でお世話になっているショットバーFIGAROの看板リニューアルの依頼を受けたのは、かれこれ10年ほど前だろうか。冒頭は、あーでもないこーでもないと考え抜いて発注したセリフのひとつだ。こうしたいわゆるデザインものを引き受けたときは、3案提出するのが小僧時代に上司よりマストだと教わったことだ。本命のA案、対抗のB案、ちょっと意外なC案という考え方をするというのも、この上司から仕込まれた。
浅草という立地を考えて3案の発注内容を考えぬいた。店の個性にシンクロすることも重要で、その他の重要な要素をさらに振りかけてデザイナーに発注するのだ。「外人さんが多いから、京都の感じが大事なんよ」とか、もう暗号のような言葉を受け取ってビジュアル化するのだから、僕はデザイナーじゃなくてよかった。
浅草っぽくないカッチョいい店という意味で、そのままにエッジの立ったデザインと、マスターがブルーのカクテルが得意だからとそのイメージのものも作ったが、限りなくC案に近い発想のあえてB案として推したコイツが採用となった。そして完成したこの看板はそのままショップカードにもなり、この店のイメージを決定づけるビジュアルになったのだ。そして狙いどおり、この看板にして以来外人さんが増えたとマスターは喜んでいる。
おっさんも増えた気がする。夕べもこの看板が読者さんたちを迎えくれて、おおいに盛り上がった。最近展開できていない『大阪ミナミ秘密基地』の常連さんもサプライズで来てくれて、悪ノリで『大阪で生まれた女』を僕のギターで歌わせたのだった。そんな集いになんらかのイメージ付けが出来ていると勝手に頷いている。もしもA案で出した浅草っぽくないキレキレの看板にしていたら、読者さんは入りづらかったかもしれない。A案は刺激が少ない浅草で、それを求めている若者たちを引き入れようとの狙いだった。実際、昔は若いヤツらが多く集い、そのつながりでまた若いヤツが増えていくという循環のバーだった。それを知っていたからこそのA案だったが、こっちのしっぽり系を選んだのはマスターだ。そして外人さんや俺たちおっさんは増えたが、若いヤツは減っちまった。若い人の酒と酒場離れによるところが大きいと思い込んでいるがいかがなものだろう。たかが看板、されど看板である。
4月から9年ぶりの東京勤務になります。
大阪の秘密基地は1度しか参加できませんでしたが,まずは浅草に参戦してみようと思います。
お待ちしてます。来週は祭日だからなしですよ。