築地の寿司屋でやさぐれる昭和40年男。

世間様が大騒ぎする寿司の街築地だが、安くていい寿司屋と出会ったことがなかった。北海道の高名なかの地も、高いばかりでろくな寿司を食ったことがない。雑踏のダウンタウンでいい店を探すのは得意だが高名な街ではうまくいかないことばかりで、築地はすっかり諦めていた。が、この街に事務所を構える団体さんの新年会で奇跡が起こった。

昭和40年男な新年会たつみ寿司ら大好きなこの感じ。きっと頷いていることでしょう。店に入ると300円〜600円程度のつまみメニューが壁に踊っている。おばちゃんの説明も楽しい。そしてここへと誘ってくれたこの日の幹事さんによれば、セパレートちらしが絶対だと言う。これから呑むってのに無粋なヤツだなと思いつつ、きっと下戸さんなんだろうと飲み込んだ。そして彼に促され、この日の参加者7人全員がファーストオーダーでなんと“ちらし”をオーダーしたのだった。「やれやれ、今日はどうやら早じまいだぜ。2件目は赤坂にでも繰り出して1人酒だな」なんてニヒルを気取っていた。が、このセパレートちらしが凄かったのだーっ。

待つことしばらく、出てたのは下駄の上からはみ出しそうなほどの刺し身、さしみ、サシミだ。「ちらしってのはしゃりの上に新鮮なお魚さんが乗っているもんだろが」とニヒルな俺は崩さない。だがここからはこの店の紹介者の独壇場だ。「これスゴいでしょ。新鮮そのものでこれだけで十分でしょ」と言いやがる。「けっ、コイツはちらしじゃないぜ。刺し盛りじゃねえか」とやさぐれる俺だが、どこまでも魚を愛する俺でもある。だんだんと紹介者に気持ちが近づいていく。マグロ好きを満足させる赤身に赤貝は新鮮そのもの。江戸っ子泣かせの大振りのシャコなどなど、やさぐれの心はどんどんと開かれていった。そこに水を差すようにおばちゃんが「そろそろちらしをお持ちしましょうか」と来た。「ふっ、俺たちゃこのちらしと言う名の刺し盛のを食っているんだぜ」とあくまでニヒルに笑みを浮かべる俺の横で「お願いしますっ」と元気に応える紹介者だ、やれやれ。

ここで気付いた。「そうだ、このメニュー名はセパレートちらしじゃないか」と。遅れてシャリが出てくる。ここの刺し盛りがスゲー大量だったのはそういうことかと、まだまだ残る刺し身を大事に守る俺に対して紹介者はすべてを平らげている。愛すべき酒呑み若干名が俺と同じように下駄の上に大切そうに切り身をいくつか置いてあるぜ「ふっ」。

そして出てきたシャリは、これぞちらしじゃないか。ウニまでのっていやがる。これで先ほどの15点以上乗っていた刺し身と合わせて3,000円しないのだ。これは「やっぱり築地だねー」なんて言って浮かれてやがる連中に4,000円で飛ぶように売れるぜとあくまでやさぐれながら完食した俺だった。

今年よりこのブログで連載する(笑)、昭和40年男のためのグルメ第1回でした。要予約でどうぞお出かけください。

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