生まれて初めてこのメニューに出くわしたときは衝撃だった。もう20年近く前のことで、伊勢神宮へと旅行に出かけたときのことだ。出張でなく、取材やイベントでもない。すなわち仕事でなく見知らぬ土地へと出かけることが極めて少ない僕だから、たくさんの想い出が鮮明によみがえる。それまでふれたことのない荘厳さや、江戸っこたちの憧れだった場所に来られたことなど感動の雨あられで、いつかもう一度行きたい場所のベスト5に入る。
名物はそんな想い出に花を添えてくれるもので、この伊勢うどんの衝撃もまさしくそれだ。一口めは正直なんでこんなもんが名物なんだと思ったが、食べ進めていくうちに見直していき虜になった。この日のうちに別の店でそのうまさを確認したほどで、讃岐うどんをこよなく愛し、麺の魅力とはコシであるとの信念を持つ旅の相方も同意見で感動を分かち合ったのだった。
地方や海外のうまいものが、東京では何でもかんでもお目にかかれるのはありがたいことだ。しか〜し、その地を訪れたからこそ食すべきものがある。伊勢うどんはその名のとおり、伊勢でしか食っちゃイカン。そして伊勢に出かけたらまずは伊勢神宮を訪れなくてはイカン。そう思ってうまさの感動を封印したままにしていたのだが、先日伊勢神宮参りに出かけた知人が買ってきてくれたのだ。頂き物じゃ仕方ないと、泣く泣く(ウソ)食卓に並べた。久しぶりの再会に嬉々として、三食入りのを女房と2人で一気に平らげたのだった。やっぱりうまい。柔らかいことがウリの1つだから、土産に適しているうどんと言えるかもしれん。
とはいえ、伊勢神宮参り無しで食べたことの罪悪感は残り、後日あやまりに出かけることにする(笑)。やがて迎える誕生日の後、50歳最初の旅行先にしようかと検討中だ。そう思うと今は、この界隈で仕事が入らないことを祈るばかりだ。