アナログ盤。

引越を機にレコードプレイヤーを復活させた。
これまでもがんばれば聞ける環境ではあったものの、プレイヤーを棚から
よっこいしょっと引き出してから聴くという、なんともかったるい設置(恥)で
ほぼ音楽を奏でることはなかった。
そこで今回はいつでも気軽にかけられる環境を作ったというわけだ。
いやあ、久しぶりですが儀式だね。スタートボタンを押すと盤が回り始める。
針を上げてそっと降ろす。サーッ、プツプツ。
ボク程度の耳ではどこがどう違うのか詳細な解説なんかできないが、
やっぱりいい音だなと思えるのは目に見えて回っている盤の上を
針が滑りながら音を出しているという、その努力(笑)も大きいな。

ボクが生きている業界ゆえか
「本のめくる感じが好きなんですよ。紙の感触とかもいいですよね」
と、よく言ってもらえる。たぶん気遣ってくれている方も多いと思うが、
僕はこうした言葉を意識的には遠ざけながら、俯瞰の目で見るようにしている。
だからかな、普段少々無理しているものが吹き出すかのごとく堂々と言えちゃうのである。
「いいな、アナログって」。趣味の話だからこんな余裕でいられるのだけど、
音楽の世界は雑誌とか書籍よりずっとずっと早くデジタルへと移行して、
それどころかつねに主戦場の1つとして改革にさらされてきた。
そう考えると僕の世界はなんともオットリとしているのだろうとも取れなくもないが、
もちろん諸事情がある。

今年は電子書籍が…、なんて騒ぎがいたるところで起こっているが、
ここまで遅れているのにはやはり事情がある。その大きな要因の1つが
日本語という言語によるところだ。複雑な組み合わせを強いられる言語を、
さらにいかに美しく見せ、いかに読みやすく届けるかという部分が
これまで技術のひとつでもあった。出版物のデジタル化はここをクリアするのが
少々厄介である。欧文との圧倒的な差異がここにあり、比べてみると音楽の場合は
技術が世界中で共有しやすい。加えて、日本の国土サイズは高人口密度が手伝って
物流効率がわりとよい。取り次ぎと呼ばれる問屋さんが張り切ってがんばれば、
アナログでも成立するのだ。そんなことで、遅れ気味になる言い訳が
この他にもいくつかできる。と、甘えてきた業界であるが、
いよいよ加速にいっそうの勢いが加わってきたのがここ最近の騒ぎである。

俯瞰で見る目を大切にしてきたと書いた。おかげで、僕は紙にこだわりたいと思わない。
好きですよ、そりゃあ大好きですよ。このご時世にアナログ盤を復活させて喜んでいる
じいさんですからね(爆笑)。でも、僕たち出版社は紙を使用することを条件にした
パッケージビジネスを展開しているわけじゃない。これは、否定される場面も
あるかもしれないが、ずっとそう思ってやってきた。だからこそ、雑誌という表現に対する
テクニックを磨くことができたのだ。僕たちが展開しているのは、メッセージや情熱、
ジャーナルといったコンテンツを利用したパッケージビジネスなわけで、
そして現段階では紙をめくりながら読み進めて行くという雑誌での表現テクニックや
経験を持っているから、そこで勝負しているに過ぎない。つまり雑誌というインフラに
乗っているだけで、本質論ではないのだ。いいコンテンツをつくることと、
いい雑誌的表現をつくることはまったく異なる感覚が必要ということですな。
でももちろん、ビジネスは甘いものじゃないから、雑誌におけるテクニックだって
努力によって得たものであり、企業秘密だってたっぷりなのだよ(笑)。

いい歌は、アナログ盤で聞いてもCDで聴いても、移動中のiPhoneでも、
音質の差こそあれそのTPOの中ではすばらしく響いてくれる。
だってね、それはすばらしい楽曲と演奏、そしてあの声とか諸々…、だからでしょ。
僕たちも行くぜ、電子書籍の世界へ。秀逸なインフラ構築をお願いしますってか。
もちろん紙表現にも、ますます磨きをかけて愛していきます。

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2件のコメント

  1. アナログプレーヤー、いいですね~。
    僕もオーディオファンの端くれとして倉庫に眠るターンテーブルが日々気になっています。
    バンドでドラムを担当している公立高校教員(38年男)がこんな事を言っていました。
    「キレやすい子供ってさ、テレビのチャンネルがリモコンになりレコードがCDになった事が大きな要因なんだよね。レコードって一度かけると大抵は好きな曲まで我慢して聞く。たまに飛ばしたりもするけど大抵は他の曲も聴いてたよね?でもさ、CDだとどんどん飛ばせるじゃない?テレビのチャンネルも一緒。テレビの所まで行って回してたチャンネルから座ったままどんどんチャンネルを変えられるリモコンに変わった。それがキレやすい人間を造るきっかけになってる…」
    一理あると思う。

    • なるほどっ、一理ありますな。学会に発表しましょう。確かにすっ飛ばせないから、逆に曲順を楽しむのも嗜みでしたよね。それとB面の頭は一度リセットしての第2幕の始まりのような聞き方をしたり。参考になりましたので、このネタは今夜の宴席で使わせてもらいます(笑)。

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