全日本ロードレースを終えて我想う。

「いい1年でしたね。今年も終わりですね」
昨日は〆切作業から逃亡して三重県の鈴鹿サーキットに出向いた。日本一速い男を決めるレース取材の終了後に、いつも一緒に仕事をしている担当者にこの言葉を放った。すると「まだ12月があるじゃないですか」と返してくれたのだ。なんのこっちゃとのみなさんばかりでしょうが、ちょいとお付き合いください。

ウチの会社はバイク雑誌を7誌発行していて、カワサキのバイクだけに絞り込んだ『カワサキバイクマガジン』なる雑誌も布陣している。同じメーカーのバイクを愛する者同士の共感を売り物にしているのだから、ある意味『昭和40年男』と同じ手法なのかもしれん。このアイデアを生み出した天才マーケター(ウソ)の僕の旗ふりで創刊したのが1996年。紆余曲折がありその2年後の1998年に僕は編集長に就任した。以来、カワサキとは多くの仕事をご一緒させてもらっていて、前述の担当者とはカワサキの人間だ。

この雑誌を通じたカワサキとの縁のおかげで、2つのブランドのバイクイベントを共催させてもらっている。素人ながら双方MCを担当して、めいっぱいの力を込めて言葉を発することの素晴らしさを学び、これからも磨いていきたいと常々思っている。今年はこの内の1つで、29歳以下の若いカワサキオーナーに照準を定めた『カワサキオーナーズアンダー29ミーティング』に、カワサキの看板を背負って走る24歳の若者、渡辺一樹選手が毎回ゲストで来てくれてトークショーを行なっている。MCはアマチュアとはいえ、雑誌作り同様に人に喜んでもらうことは僕の生業であり、その努力は惜しまないつもりで懸命にのぞんでいる。

そんなエンターテナーな僕(またウソ)にとって、1年を通じてトークショーを行なう相棒を得たのは初めての経験である。反面ツライのは、おもしろくしようとすればするほど、この若者の内側に入っていかなければならないことだ。まだまだガラスの20代なのに、おっさんは矢吹丈のごとく“えぐるよう打つべと打つべし”とジャブを繰り出す。大舞台となった今年の鈴鹿8時間耐久レースで転倒してしまったことも、先日行なわれたイベントではネタにした。つくづくえげつないおっさんなのに、一樹選手は真摯に回答をひねり出してくれる。この姿勢や彼の諸々から、日本一を目指す男の心意気を密かに学ばせてもらっている僕だ。

昨日のレース、そして今年1年のシーズンで考えたら一樹選手にとっては残念な結果に終った。数字(年間ランキング7位)だけでいえばそうなるが、かばってやれる要素は山ほどある。が、それも含めて速い男を決めるのがサーキットの掟であるからここでは語るまい。呑み屋で酔っぱらって1人でグラスに愚痴ることにする(笑)。

最後のレースを終えた彼がヘルメットを脱いだ瞬間に、僕は偶然目の前にいた。僕は考えられるさまざまな態度からこれだろうと、精一杯の笑顔を浮かべて握手を求めた。疲れ切った彼にはさぞ気持ち悪い笑顔だったろうが「お疲れさまでした」と声をかけた。すると握手に応じて間を入れず「最後に抜かれたのがスゲー悔しいっす」と言葉を絞り出した。男が出まくったその表情に、思わず心の汗が流れそうになったがグッと堪えて気持ち悪い笑顔を崩さなかった僕だ。スタート直前は「カズキ、行って来い」と、グローブ越しに握手をしながら心の底から言葉をかけて肩を叩いた。そしてプレスルームで戦況を見守りながら、表彰台にあがって記者会見会場で顔を合わせたらきっと号泣するだろうなと、近頃涙もろくなった自分をバカにしながらそれを祈り続けた。かなわなかったのは来年へのお楽しみであり、彼にとってはのしかかってくる宿命となる。まだ現段階で来年の契約は白紙状態だそうだが、来年もカワサキを背負って走るのは間違いない。そして気の早い話だが、来年の最終戦では号泣したいものだ。

さて、冒頭の言葉。一樹選手の今年の成長がめざましかったから出た本音である。本人もトップが見えて走っているとの確信を持てて、僕の言葉どおりいい1年だった。そんな姿を一喜一憂しながり間近で見続けて、出来れば今年1年に関しては一樹選手との仕事を終わりにしたい。一対一のお疲れさまの長電話で締めくくりたいと個人的には思う。だが、希代のエンターテナー(いい加減にしろっ!!)と、日本一を目指す若きレーサーには1つ仕事が残っているのだ。それが僕の言葉に返された「まだ12月があるじゃないですか」で、来月7日にイベントがある。この日、福岡博多で僕は矢吹丈に変身する。そして集まった29歳以下のライダーたちにジャブの数々を見せねばならぬのだ。振り返りたくないだろう今年の癒えきっていない傷に、たっぷりと塩を塗り込む。これがワシの仕事じゃい!! そしておっさんの責務として、尊敬する清原明彦のごとく若者に心で接する。すべては来年のためにあるのだと信じて打つ。

カズキ

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